第11話
もみもみ、サワサワ、リチャード殿下の側は安心する?
リチャード殿下にもっと甘えたい? 湧き上がる気持ちが何なのかわからないまま、黒猫の姿で彼に触れていた。
モフモフ、モフモフ、しばらくしてリチャード殿下の体が小刻みに揺れる。
「ミタリア、その触り方は……ククッ、くすぐったい」
「……? ここですか?」
「クク、やめろって……ハハハッ――」
コチョ、コチョ。
「……ククッ、よくもやったな、ミタリア」
楽しくなった、私はリチャード殿下をくすぐりすぎて、墓穴を掘る。彼に許さんと言われ、押さえ込む様にポフンと、リチャード殿下の顔が乗る。
「すみません、リチャード殿下」
「いいだけ触りやがって……罰として、俺のことをリチャードと呼ぶんだ?」
「ふえ?」
驚きで変な声が出た。
「なんだよ、そんなに驚くことか? まったく呼べと言ったのにズーッと殿下呼びだ――ほら、罰だから呼べ」
「……リ、リ、リチャードさ、ま……リチャード様」
と、とくん……。
とくん、とくん。
(えっ、なに?)
とくん、とくん、と鼓動が速くなる。
お腹が熱くて、リチャード殿下の頬に無性にスリスリしたくて仕方がない。彼も同じ気持ちなのか、覗き込むような私を見ていた。
どうして、こんなにも、頬にスリスリしたいのか分からない。
(でも、今ここでリチャード殿下に触れてしまったらどうなる? いや、ダメ、ダメだよ……きっと触れたぶんだけ、悲しい気持ちになるに決まってる)
殿下がずいっと私に近付く。
そんな、やさしげな瞳で見ないで。
「ミタリア、頬にスリスリしてもいい?」
「いや、です」
しゅっ、私は避けた。
「なあ、いいだろう?」
「無理です!」
しゅっ、また避けた。
いくら避けても、避けても、殿下がぐいぐい責めて来る。
「いま触ってはダメです。したいのなら、リチャード様の婚約者にして――」
「ハァ、何言ってんだ? ミタリアが俺の婚約者だろう?」
「あっ、そうでしたわ」
「ははっ、なんだよそれ可愛い」
笑ったリチャード殿下に気を取られて、スリスリを許してしまった。
♱♱♱
リチャード殿下の寝室――ベッドの上。スリスリの後、もう一回しでもいいと聞いた、リチャード殿下と私の攻防戦が始まった。
それを、止めたのは側近リルだった。
私達は攻防という、じゃれあい中のなかコンコンと寝室の扉が鳴った。リチャード殿下が返事を返す。
「リチャード様、夕飯の準備が終わりました」
夕飯? 私達は一斉に時計を見た。
(もう、7時? 家まで時間がかるから直ぐに城を出ないと)
「結構、遅い時刻だな。俺が公爵家に連絡するから今日は客室に……」
と、言い切る前に言葉を被す。
「いいえ、お疲れのリチャード様の邪魔をしたくありません、私はこれで失礼しますわ」
「そうか……まあ、泊まりは来年に入学する学園の長期夏季休暇にでもすればいいな。リル、直ぐに食堂に向かうと父上に伝えてくれ」
「かしこまりました」
リチャード殿下が見ないように背を向けたので、テーブルの上の腕輪を着けて元に戻り着替えた。私が着替えた終えたのを見て、殿下も腕輪に手を伸ばしたので目を瞑った。
着替えが終わり、よし行くかと馬車まで送って貰っている途中。リチャード殿下が私の手を握った、その手は私とは違う男性の手だった。
「フフ、小さな手だな」
「まあ、リチャード様の手が大きいだけです」
「ククッ、そうだな」
なんだか、楽しそう。
「ミタリア、今日は遅くまで悪かったな。明日、明後日と俺は執務で忙しくなるから城に来なくていい。3日後の早朝に迎えに行くから」
「はい、わかりました」
「じゃ、3日後に会おう。気をつけて帰れよ」
リチャード殿下に見送られ馬車に乗り込んだ。
ゆっくり出発した帰りの馬車の中で、私はお布団に丸まる。
あのとき、お腹がムズムズ、ズキズキでもなく、熱くなって、どうして……リチャード殿下の頬にスリスリしたくなったのだろう。
「え、濃くなってる?」
――入浴の時に見たお腹のアザが、なんだか前より濃くなったような気がした。
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