31「魔剣の方が強いんじゃね?」②





 夏樹は、あえて魔剣を二度振らず、征四郎の鳩尾をつま先で蹴り上げる。


「がっ!?」


 くの字に曲がった征四郎に魔剣を持っていない手を伸ばし、彼の腕を掴むと、十束剣を無理やり奪い取る。


「か、返」


 返せ、と征四郎が言うよりも早く、夏樹は常闇の剣で三度斬り、十束剣を破壊した。

 神格は消えていないので、破壊こそ出来ても剣そのものを殺しきれていないのだが、征四郎とのリンクを断ち切れたのでよしとする。


(……なーんか、精神的に影響を受けていたよね。きっと魔剣を銀子さんに取られたからって代わりのを探したんだろうけど、あんましよくない剣を選んじゃったみたい? いや、選ばされた感じかな?)


「おい、あんた。ちょっと、正気戻れ」


 征四郎の襟首を掴んだ夏樹が魔力を込めた拳を顔面に数発叩き込む。

 鼻血を垂らし、唇を切った征四郎の目に、今までとは違う光が宿る。


「よし! 戻ったな、んじゃ、これは一応、念のためと銀子さんに手を出したことと、蓮と祐介くんを危険な目に遭わせたことを込めて、――勇者パーンチ!」

「ぐぺっ」


 けじめとして、死なない程度の力で頬を打ち抜いた。

 背後から「あれ、くっそ痛いんだよな」という千手の声が聞こえたが、無視する。


 手をぷらぷらさせた夏樹が銀子に顔だけ向けた。


「なんか銀子さんも少しは悪いようだからこのくらいで済ませるけど、いい? 納得いかないなら、殺すけど?」

「いや、いいっす。夏樹くん、ありがとうっす!」


 銀子が首を横に振ったので、夏樹は常闇の剣をしまう。


「だってさ、なんか嫌なことがたくさんあったみたいだけど、忘れちゃいなよ。俺は付き合ってあげられないけど、酒でも飲んでさ」

「……俺には酒を飲む友人もいない」

「寂しいなぁ。おーい、千手さん、お酒好き?」

「好きに決まってるだろ!」

「祐介くんは?」

「まあ、嗜む程度には」

「これは結構、飲む人だな。蓮は?」

「僕は、飲んだことないよ」

「おっ、じゃあ、飲もう飲もう! 銀子さんとか、小梅ちゃんはすげー飲むし、ジャックとナンシーと合流してさ、アルフォンスさんも誘って飲もうぜ! もちろん、俺はコーラだ!」


 千手が頷き、蓮と祐介が顔を見合わせて笑顔となった。

 銀子と小梅が「酒じゃー!」と万歳する。

 今まで戦っていたとは思えない雰囲気が確かにあった。


「……お前たちは……面白い奴らだな」

「愉快な仲間たちだよ」

「俺は堅物だ。友人もいない。酒を一緒に飲む相手もいない。だから、少しだけ羨ましい」

「だから一緒に飲もうって、愚痴くらいなら聞くって。あ、そうだ」

「どうした?」


 なにかを思い出した夏樹が、アイテムボックスに手を突っ込んでごそごそ何かを探す。

 しばらくして、


「お、あったあった!」


 一本の西洋剣を引き抜いた。

 ロングソードと言われるものだが、刀身に宿る魔力は威圧感を覚えるほどだ。


「これね、銀子さんにあげた魔剣太郎と同じくらいの魔剣なんだよ。まだ数本あるから」

「ちょ、待つっす! お待ちなさいっす! 魔剣はぜひ銀子ちゃんに! 魔剣担当は銀子ちゃんっすよ!」

「銀子さんはややこしくなるからだめぇええええええ! そもそも銀子さんが魔剣を奪っちゃったのも、今回の騒動の原因のひとつなんだから、家族としてお詫びをしないと!」

「いやいや、自分、命狙われましたからね! 社会的にも殺されかけましたからね! あ、よく考えたら、私はなんもやり返してないじゃないっすか!」


 銀子はそう言うと、助走をつけて征四郎にドロップキックをした。

 地面を転がる、征四郎を見て頷いた銀子は、


「これで勘弁してやるっす」


 と、満足そうだ。

 立ち上がった征四郎が、顔を引き攣らせている。


「お、お前はいつもそうだ。悪魔を退治する授業で協調性はなく、自分だけのことしか考えていない! そのままではいつか足元を掬われて死んでしまうのではないかと心配したからこそ、痛い目を見せようと思い戦うことにしたと言うのに!」

「私のほうが強かったんで、魔剣さんはもらって魔剣花子ちゃんになりました!」

「ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「つーか、なんで今さらだったんすか?」

「あ、それは俺様も気になるんじゃが!? 銀子がJKだったんは、古の時代じゃろう?」

「古じゃねえっすよ! 数年前っすよ!」


 銀子の疑問に、夏樹たちも同様に気になった。

 なぜ「今」なのか。


「……俺は、数年ほど修行していたんだ。だが、わかってしまった。魔剣を持たない俺の実力はそこそこ止まりなんだと。魔剣があってこそだったのだと。それに気づくまで時間がかかってしまった」

「それで神剣を?」

「強い武器ならなんでもよかった。院の支部に、十束剣があると聞いたことがあったからな。試しに、院の支部に足を運んでみると、なにか呼ばれた気がして……そこからはあまり記憶がはっきりしていない」

「神剣にはふんわりと意志があるみたいだよ。きっと呼ばれちゃったんだね」

「……情けない。また修行のやり直しだ。すまなかった、青山銀子。そして、君たちもすまない。心から謝罪する」


 神剣の影響がなくなった征四郎は、その場に膝をつき謝罪した。

 きっと、根っこはいい人なのだろう。

 銀子と魔剣を懸けて戦ったのも、彼女のためだった。ただ、運悪く銀子の方が強かったと言うだけだ。


「おっさんの土下座なんていらねーっす! ちょっと物足りないっすけど、王子様に助けられるお姫様の気分になったんで、よしとしましょう」

「……感謝する」

「とりあえず、立ってください。忘れていたとはいえ、元先生に土下座されても気分はよくならねーっすから。一応、私も謝罪します。当時は、いろいろ見えてなかったんで。でも、魔剣花子は自分と契約しちゃったんで、返しませんからね」


 征四郎の謝罪に、銀子も謝罪で返した。


「おいおいおい、あの銀子が謝罪しとるんじゃが。偽者じゃぞ」

「銀子さんをどこにやった! 返せ、俺の家族を銀子さんを!」

「ふたりともひでぇ!」


 征四郎は、苦笑する。

 復讐にすべてをかけていたはずが、晴れ晴れした気分だった。

 元とはいえ、生徒を傷つけずに済んだことを、本当に良かったと思う。


「あ、そうだ。それで、この魔剣なんだけど」

「え? 本当にくれりゅの?」


 ――とぅくん。

 征四郎はときめいてしまった。

 夏樹は親指を立てて、良い顔をした。


「うん、あげりゅ」


 夏樹が征四郎に魔剣を渡そうとしたとき、パチパチと拍手が鳴った。


「おいおい、おじさん感動しちゃったぜ。生徒と教師が和解し、友情が生まれたな。いやー、長生きするもんだ。すさすさ」


 夏樹たちは、咄嗟に声の主を見た。

 誰も気づかなかった。

 いくらなんでも、ありえない。

 何も感じなかったのだ。


「よう、良い夜だな! すさすさ!」


 草履と甚平姿の三十過ぎの男性が、聞いたことのない語尾をつけて笑っていた。








 〜〜あとがき〜〜

 一体誰なんだ!?


 青森にて、


 マモンさん「――――ふっ。人生に九割以上をまもんまもんに費やした私に比べたら、浅い。浅すぎる」

 さまたん「お前は急に何を言っているんだ?」

 マモンさん「サマエル様が考えてくださった私の語尾以上に素敵な語尾はないということですよ!」

 さまたん「意味がわからん。おい、キメ顔するな。ドヤ顔も止めろ」



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