30「魔剣の方が強いんじゃね?」①






「な、なんて酷いことを企んでいるっすか! ていうか、どこからそんなものを持ち出したんすか! 学生時代の思い出なんで、部活仲間しか持ってないはずなのに!」

「貴様のお宅にお邪魔した! 貴様の元担当教師だと言ったら、お母様があげてくれたぞ。フルーツたっぷりのショートケーキは美味しかった!」

「なに家に上がってケーキまで食ってるっすか! つーか、お母さんもなんでこんなおっさんを私の部屋に上げちゃったんっすか!」

「俺も少し心配になってしまった。貴様には恨みがあるが、親御さんまでどうこうしたいわけではないからな」

「なーに、ちょっと善人ぽいこと言ってるっすか! 私が復讐されたら、お母さんだって悲しむに決まってるじゃないっすか!」


 殺伐とした雰囲気が消えてしまったが、銀子にとっては表には出せない内容の同人誌を書いていました、現在公務員です、とネットに晒されたら大事件だ。

 物理的に殺されるのとどちらがマシか、悩ましいが、夏樹としては宇宙の余韻が残っている内に、家に帰ってベッドで夢を見たい。

 それに、少し離れたところから蓮が、ジェスチャーで神奈征四郎が限界であると言っている。頷くことで、返事をした夏樹も理解していた。

 彼の持つ神剣は、人の身には少々持て余しているようだ。神剣に侵食されつつあるのが、夏樹に眼には見て取れた。

 手に握っておらずとも、霊的なパスが繋がっているので、影響は現時点でもある。

 このまま放っておくと、征四郎が廃人となるのか、それとも死亡するのか、または神剣に肉体を乗っ取られるのか、可能性としてはいくつもあるが、どれも良くない結末だ。


「銀子さん、とりあえず、同人誌は後にしよう」

「いやいやいやいやいや、私の人生が終了しちゃうっすよ!?」

「大丈夫大丈夫」


 夏樹が、地面を力強く踏むと、雷が迸り、征四郎の持つ同人誌を焼いた。


「ぎゃぁあああああああああああああああああ! 青春の思い出がぁあああああああああああああああ!」

「俺の最終兵器がぁあああああああああああああああああああああああ!」

「あのさ、仮にも神剣持ってるんだから、最終兵器を同人誌にすんなよ!」

「本当、それじゃな」


 銀子の絶叫はさておき、征四郎はどうなのだろうか、と悩む。

 復讐するつもりで来た割には銀子に毒されている気がする。


(個人的には、残しておいたら困るものを後生大事に持っている必要はないと思うんだよね)


 銀子には悪いと思ったが、あえて同人誌を残しておく理由がわからないので、躊躇いなく焼いてしまった。

 あとは、征四郎を無力化すれば終わりだ。


「悪いけど、さっさと片付けるから」


 軽やかに地面を蹴った夏樹が征四郎に肉薄する。


「抜かせ、小僧! できるようだが、神剣を持つ俺に勝てると思うのか!」

「じゃあ、勝負だ! 俺の持っている魔剣とそっちの神剣はどっちが強いんだろうね!? ――来い、常闇の剣。仮にも魔王の剣だ、神なんかに負けるんじゃねえぞ!」


 虚空から魔剣を抜いた夏樹と、征四郎の十束剣がぶつかる。

 互いに最高の一撃を繰り出したことは間違いない。

 技量では、征四郎に軍牌が上がるが、速さと膂力では夏樹の方が上だ。

 あとは、常闇の剣と十束剣の違いだが、結果はすぐに出た。






 ――ぱきんっ。






 音を立てて、十束剣が真ん中から両断された。







 〜〜あとがき〜〜

 補足:征四郎さんの胴体は無事です。十束剣さんが頑張りました!


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