32「すさすさとかないんじゃね?」①





「すさすさだぁ?」


 見知らぬ男の登場に、夏樹は顔を顰めた。

 神気を感じるので、神なのだろうが、明らかに「まもんまもん」のパクリみたいな語尾で喋ったことを夏樹は聞き逃さなかった。


「おう。すさすさだぜ! おっさん的にはまもんまもんよりも響きがいいと思うんだがなぁ。どうよ? あ、すさすさ!」

「いや、出直してこいよ?」

「ほえ?」

「おっさんが可愛い困惑声出すんじゃねぇぇええええええええええええええええええええええええええええ!」

「じょ、情緒不安定かよ、すさすさ」

「すさすさ、うぜぇええええええええええええええええええええええええええ!」


 まもんまもんは心地よい響きだった。

 マモンは、それだけではなく「俺は強欲な魔族だが」という謳い文句もちゃんと言っていた。

 しかも、目の前の男と違うのは、マモンの「まもんまもん」は呼吸と同じだ。

 しかし、「すさすさ」は狙って言っている感が強く、ドヤ顔なのも鼻につく。


「うざいって、お前、ひどいな。すさすさ」

「なんなの? どこのどいつだか知らないけど、まもんまもんのパクリとかして恥ずかしくないの? 自分のちゃんとした個性無いの? 神のくせにパクリの語尾で個性主張とか、パクリの神様なの?」

「ひ、ひどい、そんなに言わなくてもいいじゃない。すさすさ」

「その語尾やめろよ! 魂が篭ってないんだよ! マモンみたいにSNSでバズるくらいしてから出直してこい! ぶっ飛ばすぞ!」

「……すみませんでした」

「まあ、悪意はないみたいだから、今回は見逃してあげるけど。ちゃんとマモンに許可取るとか、それなりにバズるとかしてからきてほしいんですよね。こっちも暇じゃないんで」

「はい、すみません」

「まったく、これだからすぐ流行りに乗ろうとする人は……もういいですから、はい、帰って。俺たち飲みにいくんで」

「すみません。お邪魔しました」


 ぺこり、と謝罪をして、肩を落としとぼとぼと河原を上がっていく男性。

 夏樹は、一体何しに来たんだろうか、とぷりぷりしていた。

 せっかく銀子と征四郎の件がひと段落しようとしていたのに、水を差された気分だった。


「なんか変なおじさんきちゃったけど、仕切り直そう!」

「待て待て待て待て、待つんじゃ、夏樹!」

「どうしたの、小梅ちゃん?」

「確かに奴の語尾はふざけておったが、すさすさじゃぞ。なにか思いつかんか?」

「別に?」


 夏樹は首を傾げるが、銀子は「あー」と何かに気づいたのか唸り、千手、征四郎、祐介は夜だというのにはっきり青い顔をしているのがわかった。

 蓮だけが夏樹と同じく、すさすさ言っていた男の正体に気づいていないようだ。


「どうせマモンファンでしょう? 嫌よねぇ、マモンがちょっと人気になったからってすぐ真似する人って。恥ずかしくないのかしらぁ」

「いやいや、人ではなくて神なんじゃが。小梅ちゃん的にはあまり好きではないんじゃが、へそ曲げられたら面倒臭いランキングじゃと上位ちゅーか、日本じゃと一番じゃろう」

「そんな面倒臭い神と関わるのはごめんだって! 戻ってこないうちに、そっとアルフォンスさんのお店いこうぜ!」


 夏樹が元気いっぱいに仕切り直そうとすると、河川敷をダッシュで再び甚平姿の男が戻ってきた。


「つい帰っちゃったじゃねえか! ここ何百年、人間にあんな酷いこと言われたのは初めてだぞ! ちょっと辛くて涙でちゃったから!」

「……もう、なんですか。一緒にお酒飲みたいの?」

「酒は好きだけど……じゃねえよ! そうじゃねえよ! すさすさで気づけよ! 俺だぞ、俺俺!」

「すみません。俺俺詐欺はちょっと。引っかかるほど知り合いいないし、お金もないんで」

「だーかーらー! 何この坊主? ゆとりか、ゆとりなのか!? 話が通じないっていうか、疲れる!? あれか、俺がおっさんだからか!? クソジジイは面白い奴だって言ってたんだけどなぁ! おかしいなぁ!」


 首を傾げながら、男は夏樹の前に立つと、にぃ、っと笑う。


「わかるぜ、お前の動揺が。あまりにも有名な神が目の前にいることが想像できないそうだろう? すさすさ」

「違います」

「天照、月読ときて、すさすさ言ったらもう俺しかいないだろぉ!」

「すさすさがうざくてなんも考えられない」

「……わかった。あえて名乗ってほしいんだな? このよくばりさんめ! いいだろう、名乗ってやるぜ」

「いえ、別に」






「俺は、素盞嗚尊! 海神であり、嵐の神であり、農業神でもある! そして、日本神話で一番人気なイケメンな神様、だっ!」





 素盞嗚尊と名乗った刹那、凄まじい神気が解き放たれる。

 銀子、千手、征四郎はもちろん、霊的に強い蓮も、そして天使である小梅でさえ、神気の圧によって押し潰されたように地面に倒れ、動けなくなる。


「いや、最後溜めんなよ」


 だが、夏樹だけはしらけた顔をして平然と立っていた。


「え? なんで、このお坊っちゃんは平気で立ってるの?」


 さすがの素盞嗚尊も、自慢げに放った神気の中で余裕な夏樹に顔を引き攣らせるのだった。








 〜〜あとがき〜〜

「すさすさ」には厳しい夏樹くんでした。


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