23「復讐者が来たんじゃね?」②





 神奈征四郎は、霊能力者を育てる教育機関で剣をはじめ接近戦の指導をしていた教官だった。

 まだ二十台と若いが、腕は確かであり、神奈家に代々受け継がれている魔剣の継承者でもある。

 数多の悪霊、悪魔、妖怪を斬り捨ててきた経歴の持ち主で、条件さえそろえば下級の神や魔族でも倒せるだろうと期待された剣士だった。


「せめて苦しまずに殺してやろう」


 まるで流れる水のように滑らかに蓮に肉薄した征四郎が、十束剣を振るう。

 剣筋は早く、よほどの実力者でもかわすことは難しいだろう。

 得物を持っていれば、受けることができただろうが、蓮は無手だ。

 征四郎は、この一振りで蓮を斬り殺した確信があった。


 ――しかし、小林蓮は、規格外の身体能力と霊力を持つ人間だった。


「この程度なら、僕でも問題ない!」


 強化もなにもしていない肉体ではあるが、蓮は征四郎の動きをきちんと追っていた。

 そして、身体も問題なく対応する動きができた。

 蓮は迫り来る剣を一歩引くことで紙一重で避けると、右足を繰り出し十束剣の腹を蹴り上げる。


「な」


 今まで征四郎は蓮のような規格外な人間と戦ったことはなかったのかもしれない。対応されたことに驚き、目を見開き、そして肉体を硬直させてしまった。

 硬直と言っても棒立ちになったわけではない。間抜けに動きを止めたわけではない。

 一秒にも満たない僅かな、肉体の硬直だった。

 しかし、蓮には、その瞬く間の時間があれば十分だった。

 蹴り上げた右足と入れ替えるようにくるりと一回転して、左足を放つ。

 まるで征四郎の腹部に吸い込まれていくように、蓮の蹴りが直撃した。

 刹那、後方に征四郎の身体が吹き飛ぶ。


 常人ならば内臓が破壊されてもおかしくない蹴りを食らって、そのまま力尽きるかと思われたが、征四郎は剣を地面に突き立てて勢いを殺した。

 橋の向こう側まで吹き飛ばされながら、地面を転がることなく立っていた征四郎ではあるが、


「ごほっ、おえっ」


 内臓がやられたのか、大量の血を吐き出す。


「怖い剣を使っているみたいだけど、当たらなければどうってことないよ。僕は手加減が苦手なんだ。殺したくないから、この街から出て行ってくれると嬉しい」

「舐めるな!」

「警告するよ。あなたがまだ戦おうというのなら、僕は相応の力を持って応じるよ」

「舐めるなと言っているだろう! ならば、俺も本気を出そう。――目覚めろ、十束剣よ。素盞嗚尊が振るいし、神の剣よ!」


 ――どくん。


 征四郎の持つ剣が、大きく脈打った。

 異質な力を放ち始める剣に、蓮が身構える。


「これは、霊力じゃない。だけど、魔力でもない。つまり、神力かな?」

「そうだ! お前がどれだけ強かろうと、人は神には勝てんのだ!」

「待て! そんな力を人の身で使えば!」

「抜かせ! 代償など承知した上で、使っているのだ! 復讐さえ果たせば、俺は死んでもいい! だが、その前に試運転だ。少年よ、名乗れ」


 神気に包まれた征四郎が、剣を構えた。


「――小林蓮」

「良い名だ。覚えておこう。俺は、神奈征四郎だ」


 ふたりは同時に地面を蹴った、爆発的に霊力を高め身体強化した蓮の蹴りと、神気を高めた十束剣の一撃がぶつかり、――橋が崩壊した。






 〜〜あとがき〜〜

 橋さん「ぎゃぁああああああああああああああああああ」


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 大変ありがたいことに、この度、カクヨムコンにてプロ作家部門「読者開拓賞」を受賞致しました。この場をお借りて、御礼申し上げます!

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