24「勇者も参戦じゃね?」





 佐渡祐介は、異世界に召喚された元勇者だ。

 しかし、小説や漫画にあるような剣と魔法とヒロインがいる楽しい世界ではなく、汚物のような人間たちに搾取される地獄の日々を味わった過去がある。今は地球に帰ってくることができたが、夢か現実かわからなくなり、人が怖くなり、引きこもっていたのだが、同じ境遇の由良夏樹と、日本の霊能関係者である七森千手と知り合うことで、少しだけ抱えていた重石を下ろすことができた。

 相変わらず人は怖いし、目を見ることだって難しい。それでも、前に進もうと思えたのは、夏樹と千手のおかげだった。

 久しぶりに家族と食卓を囲むと、母と父は涙を滲ませ、普段ツンケンしている妹も心配していたと言ってくれた。

 家族は信用できる、信頼できる、大切な存在であると認識できて、気が少しだけ楽になった。


 一歩、前に進んでみると、意外と二歩目は簡単だった。

 数日、引きこもっていたせいでいろいろ臭いがついてしまったシーツや衣服を抱えてコインランドリーに向かった。

 母に迷惑をかけたくなかったし、コインランドリーなら人ともあまり会わないだろうと思い、洗濯物を突っ込んで時間潰しをするために河川敷でも行くことにした祐介は、


「あれー?」


 異能バトルみたいなことをしている男性二人を目撃してしまった。


「あわわわわわわわわわ、なにあれ、なにあれ! ガチじゃん、ガチバトルじゃん! あれ? 日本のファンタジーってもっとふんわりしている感じじゃ無いの? ラブコメじゃ無いの!? ガチバトル系なの!?」


 逃げればよかったのだが、お人好しな性格は異世界で散々利用されても変わらなかったようだ。

 気づけば、祐介は橋に向かって駆け出していた。


 周囲への被害を考えずにガチバトルを始めている、日本のファンタジーの住人に戦慄しながら、彼らを覆うように障壁を張り巡らせる。

 しかし、遅かった。


「あ、やば、これは、まずいよ! なにあれ、魔力とか霊力とかじゃなくて!?」


 爆発的な霊力と神力がぶつかり、橋が破壊された瞬間、祐介は魔法を発動させた。

 砕かれ、切られ、崩壊するはずだった橋は祐介の石の魔法によって、すべて繋がれた。

 形こそ保っているが、歪である。しかし、まだ数台車がいたので、橋が崩れるよりはマシだ。


「……この人たちがどれくらい強いかわからないけど、異世界のワイバーンの全力タックルよりも威力が弱いことを願うしかないかな」


 異世界で、石壁を作りワイバーンの猛攻を耐えたことがあるが、ふたりの一撃一撃は凄まじく、ちょっと自信がない。

 祐介は、戦い続けるふたりを無視して、まずは巻き込まれた人を避難させることを優先した。


「あの! よくわかんないですけど、橋渡っちゃってください!」

「あ、今、橋が、こわれ」

「夢です夢! ほら、春になってちょっと暑くなったから、熱中症で朦朧としていたんですよ、きっと。近くのコンビニまで移動して、お水飲んで、落ち着いたら家に帰ってくださいね」

「あ、うん、ありがとう」

「どういたしまして!」


 そんなやりとりを三回して、橋の上にいた車をすべて移動させる。

 怪我人がいなかったことに安堵する祐介だったが、ふつふつと怒りが湧いてきた。


「こっちは異世界で散々あってナーバスになってるのに、好き勝手やってるんじゃないよ! もうちょっと自重しろ、こっちのファンタジー!」


 叫んだ祐介は、橋から飛び降りると河原で戦うふたりに突撃した。







 〜〜あとがき〜〜

 祐介くんおこ!


 一方、その頃夏樹くんたちは。


 千手さん「あ、あのよう」

 夏樹くん「……はい」

 千手さん「由良って宇宙戦艦斬れるの!?」

 夏樹くん「斬れちゃったみたいだねー」

 千手さん「この子怖い。早く地球に帰りたい」

 ボブさん「……マジかよ、地球人怖いなー」

 ジャックさん「いや、夏樹が規格外というか、なんというか」

 海賊さん「もうやめてぇええええええええええええええええ!」


 そろそろ戻ってきます!


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