22「復讐者が来たんじゃね?」①
(なんだろう? とても嫌な感じがする。この人の右腕……間違いなく良くない物を持っているんだろうね)
蓮の前にいる男は、生気のあまり感じられないくたびれた男性だった。
色褪せたモッズコートに、よれたスラックス、すり減った革靴。無精髭を伸ばした、疲れた顔をしている。それでいながら、充血した瞳には、強い意志が宿っているように見えた。
だが、なによりも目を引くのが、布に包まれた長い『何か』を右腕に抱えていることだ。
素人に毛が生えたくらいの霊能力者でしかない蓮に、男の荷物がなにかまではわからない。だが、霊的にとても強く、それでいて『良くない物』であることはわかった。
「……お前は誰だ?」
「それは僕のセリフかな。良くわからないけど、物騒なものを持ってこの街に入られると困るんだよね」
「お前の顔は知らん。はぐれ霊能力者か?」
「元はぐれ霊能力者かな? 今は、立場は複雑だけど、いずれ食堂の従業員になる予定だよ」
「意味のわからんことを。だが、俺の邪魔をする理由はないだろう?」
「あなたの目的がわからないから、どうしようもないかな」
「俺はお前に用はない。だが、俺の邪魔をしようと言うのなら――」
男は手荷物の布を解いた。
布の中から、まっすぐな剣が出てくる。
どこか古さを感じるが、それ以上に、吐き気を覚えるほど強い力を宿していた。
「……それはあなたが持っていていい物じゃないと思うよ。ううん、人が手にしていいものじゃない」
「そんなことは百も承知! だが、この十束剣を使い、俺は、復讐するのだ!」
「復讐って……よりによって、この街でそんなことを」
男の事情は知らないが、向島市には、蓮だけではなく、蓮に笑顔を向けてくれる人たちが住んでいる。アルフォンスが始める店もあるし、由良夏樹、三原一登も暮らしている。
そんな街で復讐劇など、やってほしくない。
「案ずるな。この街の人間は無関係だ。俺が用があるのはひとりだけ。お前も俺を邪魔しなければ、害することはないと約束しよう。だが、俺の邪魔をすると言うのなら」
男の唇が吊り上がった。
「お前で試し切りをしてやろう」
男から霊力が吹き荒れる。
それなりに強い部類なのだろうが、蓮には劣る。
相対して、男にさほど恐怖は覚えない。戦えば、無力化できるだろう。
(――だけど、得体の知れない剣の存在が怖いかな)
「恐れずともいい。この剣は、神が振るった神剣だ。常人が見れば、恐怖を覚えて無理はない。わかっただろう? 神の剣だ。たかだかはぐれ霊能力者では相手になどならん」
「そう言われて、あなたを見逃したら僕は後悔するかもしれない」
「勇ましく、愚かだ。好ましくあるため、もう一度言おう。お前や、この街の人間に興味はない。黙って、道を譲れ」
「気を遣ってくれるのは嬉しいけど、できないよ。僕は人を傷つけ、殺めてきた。だからね、これからは守る側でいたいんだ」
蓮は、人殺しだ。
生きるためではあっても、金をもらって人を殺してきた。
その罪から逃れるつもりはないし、いつか報いもあるだろう。
だが、それまでまっすぐに生きていくと決めている。
ゆえに、目の前の男が誰かに復讐するために得体の知れぬ剣を使おうとするのなら、見逃すことはできない。
「残念だ。ならば、――死ぬといい!」
男が地面を蹴り、十束剣を振るった。
〜〜あとがき〜〜
次回、蓮くんVS征四郎さん。
同じ頃、夏樹はジャック、千手、ボブと海賊たちを八つ裂きにしています。
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