18「ケジメの時間じゃね?」③





「君のことは知っている。七森千手くん」


 土下座をした千手にまず声をかけたのはジャックだった。


「ナンシーが卑劣にも解剖されそうになったとき、君は止めてくれたようだね」

「――っ」

「え? そうなの?」


 夏樹は、ジャックに問うと、彼とナンシーが頷いた。


「ナンシーを捕らえたのも解剖しようとしたのも彼ではないよ。もちろん、彼はナンシーを逃すまいと私の妨害をしたのは間違いないが、それでもナンシーにひどいことはしていない」

「解剖されようとしていたところを、言葉巧みに止めてくださいました。そのことには、感謝しています」


 初耳だった。

 だが、確かに千手は「神が宇宙人である説」を唱えてこそいたが、解剖したいとは言っていなかったことを思い出す。


「いや、違う。俺は解剖を止めたが、それはただ宇宙から助けがこなかったからだ」

「そうかもしれませんが、止めてくださいました。宇宙から助けに来たら、それはそれであなたが私を解剖する必要はなかったでしょう?」

「……」

「あれ? でもさ、魔道具っぽい道具がいろいろあったけど、それは七森が用意したんじゃないの?」


 確かそんなことを言っていたような気がするが、あの時にはジャックたちとの遭遇や、その後の小梅とのバトルなどもあって、詳細なところまで記憶がない。


「もともと俺は、奴らに呪具や魔道具を流していたんだ。つちのこは知らんが、河童も一般人には捕まえられないだろう。それでも、道具を持っているだけで奴らは満足していたんだ。予想外だったのは、河童の代わりに宇宙人を捕まえて来たことだ」


 顔を上げぬまま千手が答えていく。

 千手は、ジャックとナンシーから敵意や怒りがないにも関わらず、あえて罰せられたいと思っているのか、言わずともいいことを言う。

 素直という意味ではなく、あえて悪さを白状している感じだった。


「顔を上げてほしい」


 ジャックに言われるまま、千手は顔を上げた。

 そんな千手に、ジャックとナンシーは頭を下げた。


「なぜ?」

「君のおかげで命よりも大切な婚約者が解剖されずに済んだ。過程はどうあれ、結果として君のおかげで私と夏樹が間に合った。そのことには心から感謝する」

「ありがとうございました」

「やめてくれ、俺は……」


 ジャックは千手に近づき、彼の肩に手を置いた。


「もちろん、思うことはある。仮に、ナンシーになにかあれば、また違った結末だっただろう。だが、起きていないことに対し、私は怒りを抱けない。君は、とても反省していると聞いた。すでに私の感情は、ナンシーを助けた時に夏樹が晴らしてくれた。反省している君に、罰を与えることも、怒りをぶつけることもできない」


(ジャックさん、懐ふけぇー。ナンシーさんもだけどさぁ。宇宙人が争いや暴力が嫌いっていうのもあるんだろうけどさ。俺だったら、恋人が死んだかもしれない可能性があるだけで、殺すけどなぁ)






 〜〜あとがき〜〜

 もう1話続きます。

 ジャックさんとナンシーさんは、基本的に平和主義です。これは甘いと言うわけではなく、地球人と宇宙人の感覚の違いとして書かせていただきました。

 ちなみに、ナンシーさんに傷ひとつあったら……ジャックさん無双が始まっていました。

 恋人は無事だった。主犯は罰せられている。千手も関わってはいたが、首謀者ではなく、解剖するつもりがなかったことを知っている。と、いうことでぎりぎりセーフということでお願いします。


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