16「ケジメの時間じゃね?」①





「あ、どうも。先ほどぶりです。なんかすみません。ええ、はい。それで、リリスさんのお世話になりたいっていうか、はい。かなり前向きっていうか、断れない勢いっていうか。え? どんな子がいいかって? えっと、ラミア、ハーピー、アラクネ、ケンタウロス、人魚、あ、もちろん人間が想像するサキュバスや、獣人とかだそうで。ええ、なんでもそちらが大好きのようで、はい、はい、じゃあ、すみませんけど、はい、よろしくお願いします。では、失礼します」


 リリスとの電話を終えた夏樹を、期待で鼻を膨らませる祐介と、「お前、サラリーマンみたいだな」と苦笑する千手が待っていてくれた。


「……サラリーマンの大変さはわからないけど、疲れはしたよ」

「お疲れさん。ほら、ジュース飲め」

「あんがと」


 ちゅー、と炭酸飲料を吸って、一息ついた夏樹に身を乗り出して祐介が訪ねてきた。


「そ、それで、由良くん。リリス様はなんだって?」

「えっと、――全員集めてしまってもいいだろうか、と言っていました」

「なん、だと!?」

「相手にも好みがあるので、写真いいかな?」

「もちろんさ!」


 ぱしゃり、とスマホで写真撮影する。

 千手が「どれどれ」と覗き込んで一緒に撮影した写真を見ると、これでもかというほどキメ顔をした祐介が写っていた。


「……無駄にキメ顔だな。数時間前まで、異世界に怯えて引きこもっていた奴には見えねえ」

「なんか合コンで無双しそうなほどキメ顔だなぁ。まあ、元気になったらなによりだよ」


 リリスに、早速写真を送信すると、『あら、可愛い子ね』とすぐに返事がきた。

 リリスが可愛いと言うのなら、大丈夫そうだ。

 ただ、今日の今日でどうにかなるわけではないので数日欲しいとのこと。


「とりあえず、何か決まったら連絡するね。それまでは、ご家族に心配させないように」

「うん。ありがとう、由良くん、七森さん。いや、ちょっと違うね。もう親友だから、夏樹と千手って呼ばせてもらうよ。僕ことも祐介と呼んでほしいな」

「あ、はい」

「急に距離詰めてきたな、こいつ。まあ、いいが」


 祐介のテンションは、出会ってから一番高くなっていることは間違いないが、だからと言って心の傷が癒えているわけではない。

 彼が癒えていくのはこれからだ。ゆっくり時間をかけて、元の平穏を取り戻していって欲しいと思う。

 同じ異世界召喚経験があるからこそ、夏樹は強く思った。


「じゃあ、友好を深めるために、みんなの好みのモンスターを言い合おう!」

「好みのモンスターとかないし!」

「俺だってねえよ!」

「……じゃあ、女の子の好みは? あ、男の子の好みでもいいよ?」

「謎の配慮しないで!」


 ファミレスで男三人が馬鹿話しながら、あっという間に午後三時を迎えた。


「んじゃ、そろそろ帰りますか」

「夏樹くん、千手さん、どうもありがとうございました」


 結局、祐介は夏樹くん、千手さんと呼ぶことで落ち着いた。

 夏樹は祐介くん、千手は祐介と呼ぶこととなった。

 数時間という限られた時間だったが、良い関係を築けたと思っている。


「おう」

「どういたしまして。なにかあったらいつでも連絡してね」

「ありがとう! とりあえず、家族に謝罪するところから始めるよ。まだ大学は行けそうもないけど、その辺りも頑張るからさ」


 最初こそ死人のような顔をしていた祐介だったが、別れ際は晴れ晴れとした顔をしていた。

 異世界に召喚されて、身も心も憔悴し、それでいながら現実だったのか夢だったのかもわからず苦悩していた青年は、少しだけ救われたのだ。


「祐介の奴、少しおかしな奴だが、元気になってよかったな」

「うん。そうだね」

「よし。じゃあ、今度は俺の番だ」

「え?」


 どういう意味だ、と夏樹は千手を見た。彼は、真剣な顔をして頭を下げた。


「俺にケジメをつけさせてくれ。お前の友達の宇宙人たちに、謝罪をさせてほしい」








 〜〜あとがき〜〜

 次回、千手さんとジャックさんとナンシーさんです!

 祐介くんは準レギュラーくらいな予定です!


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