間話「お母様からのご連絡じゃね?」②





「……冗談はさておくとして」

「本当に冗談じゃったんじゃろうな!?」

「さておくとして! 居候先でぐうたらしていないで、家事を手伝いなさい。数百年前に、家事を教えたでしょう?」

「大昔の調理方法なんぞ現代で使えるわけがないじゃろう! 頑張ってご飯を土鍋で炊くくらいじゃぞ!」


 まだ電気もなにもない時代に、小梅はリリスから花嫁修行として料理を教わっているのだが、現代においてその料理もほとんど役に立たない。

 小梅だって、一応サンドイッチやパスタなどは作れる。

 サンドイッチは好きな具材を挟んで切ればいいし、パスタなんて茹でれば市販の美味しいパスタソースに絡めればいいのだ。

 お金がないときに、茹でていないパスタをバリバリ食べていた小梅にとって、茹でることは立派な料理だ。


「俺様はいいから、花子を気にしたほうがええじゃろう。あの婚活モンスターを放っておくのはよくないじゃろうて」


 長女花子はリリスの子ではないが、昔はよく懐いていた。小梅よりも親と子だった記憶がある。


「あの子は、もう諦めたわ」

「うぉい!」

「天照ちゃんのように、偶然いい子と出会っていないかしら」

「そんな都合よく出会っとるわけがないじゃろう! ……その前に、天照は一登にガチなんか!?」

「――ガチよ」

「まじかー」

「那岐爺と那美婆もご両親に挨拶しようとしているわ。でもね、今はちょっとお兄さんの一件があるでしょう」

「……そうじゃったな」


 三原一登の兄三原優斗は、愛の女神によって過剰に力を与えられ結果として跡形もなく亡くなった。

 本来なら失踪事件として処理されるところを、サマエルによって肉体を修復してもらうことができたので、事故に遭い死亡したこととして今日、明日にはご両親に連絡が行くだろう。

 夏樹だけではなく、一登まで手をかけようとした優斗は自業自得の結末ではなるが、両親にとっては迷惑をかける息子であっても死は悲しいはずだ。

 そういうわけで、伊邪那岐命と伊邪那美命も、すぐには動けないのだ。


「三原一登も癒しが必要なら声をかけてね。サキュバスを紹介してもいいし、なんなら私が、ね」

「ね、じゃねーわ! 天照が一登にガチだとわかっておるのになーんでそういうこというんじゃ!?」

「嫌ね、冗談よ」

「冗談に聞こえないんじゃが!」

「とにかく、今度、喫茶店に来なさい。花嫁修行を兼ねて雇ってあげるから」

「……うむ。考えておく」

「ついでに夏樹くんのことも考えておいてね。ママが手ほどきしてもいいし、なんなら小梅と三人でね!」

「おかんはもう黙っとれぇええええええええええええええええええ!」


 何年経っても変わらない母に思い切り怒鳴り散らかして通話を切ると、クッションを壁に向かって投げつけた。


「……おかんは気にいると、めちゃくちゃ構うからのう。男女問わず何人犠牲になったか。しょうがない。小梅ちゃん的にも本気を出す日が来てしまったようじゃな」


 ふっ、と不敵な笑みを浮かべると、小梅は立ち上がる。


「今日から美脚デーじゃ! ジーンズをやめてホットパンツとミニスカにするんじゃ!」







 数時間後、仕事を終えて居間に戻ってきた銀子に、


「いや、小梅さんはいつも夏樹くんに美脚見せつけまくりじゃないっすか? 今さらっすよ。つーか、なんで家事とか仕事の話から美脚の話になるっすか? 頭大丈夫っすか?」


 と、散々言われて小梅は落ち込んでしまうのだった。






 〜〜あとがき〜〜

 小梅さんと小梅ママのお話でした。

 花子さんは都合よくどこかの中学生と出会って――なーんてことは残念ながらありませんでした。どんまい!


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