間話「お母様からのご連絡じゃね?」①





「さーて、お昼も食べましたし、ちょっと書類仕事でも片付けてきますね」

「……なん、じゃと?」


 お茶を飲み干して立ち上がった銀子に、小梅は驚愕を浮かべた。


「なんすか? なんで、そんなに驚いているんすか?」

「銀子……仕事しとったんか?」

「そりゃしますよ! 一応は、公務員っすからね! 私は夏樹くんをはじめやべー面々の調整役って立場があるんで、そりゃ書類仕事くらいしますって!」

「……ごろごろしておるのが仕事かと思っとったわ」

「酷いっす!」


 頬を膨らませた銀子が二階の部屋に仕事のため行ってしまったので、暇になってしまった小梅は居間で座布団を抱きしめてワイドショーを眺めていた。

 そして、ふと思う。


「……これ、いろいろまずいじゃろ?」


 由良家でお世話になってから一週間近くが経とうとしているが、小梅は毎日思うままに生きている。

 遊んでばかりというわけではなく、事件に巻き込まれたりもしているのだが、気まずさを覚えてしまう。


 春子はパート、銀子も仕事がある。ジャックとナンシーはそもそも旅行者だ。

 では、小梅は、と問われて返事ができない。


 もともと日本に長居するつもりはなく、各地を転々としていたのだが、夏樹たちに出会ってしまい、しばらく――天使的には百年ほど――日本で生活するのも悪くはないと思っていた。


「春子ママはせっかく水無月さん家からもらった金も受け取ってくれんかったし、俺様的にはまるで穀潰しのようで嫌なんじゃが!?」


 小梅だけではなく、銀子もそれぞれ理由をつけて春子に生活費を渡そうとしたのだが、「若い子が気を使わなくていいのよ」と笑顔でやんわりと断られてしまうと、無理やりお金を渡すことはできなかった。

 銀子と相談し、家族みんなでお美味しいものを食べる時や、夏樹の長期休日に旅行に行く資金にしようと決めていたのだ。

 だが、それもいつにのなるやら。


「……いずれは、由良さん家の嫁として専業主婦になる予定の小梅ちゃんじゃが、このままではいかんのはわかる。駄目姉の花子みたいにぐうたらしてばかりになったらおしまいじゃ!」


 ルシファー家の長女花子は、一日中ドラマを見ていたり、ネットゲームしたりする日々だ。時々結婚相談所に行っては、相談員が疲弊するほど無理難題をふっかける日々。

 小梅でも花子のようになったらまずいとわかっている。


「……バイトでもするかぁ。その前に戸籍じゃな。ゴッドに適当に――ん? なんじゃ、電話か? げ」


 スマホでアルバイトを探そうとしたところ、着信があった。

 ディスプレイに表示されている文字は『おかん』とある。

 小梅の母――リリスだった。


「……なーんで、急に電話がかかってきたんじゃろうか。めっちゃ嫌な予感がするんじゃが。まさかとは思うが、夏樹とゴッドが大喧嘩とかしとらんじゃろうな」


 恐る恐る通話ボタンを押すと、しばらく聞いてなかった母の声が聞こえた。


「もしもし、小梅?」

「なんじゃ、おかん。俺様は忙しいんじゃが」

「どうせテレビを見ながらゴロゴロしているんでしょう」

「……花子みたいな生活をするか!」

「ならいいけど。ところで、夏樹くんと会ったわ。とてもいい子ね。近づいただけで物凄く強いとわかるのに、本人はとても自然体で可愛い子」

「そうじゃろそうじゃろ! 夏樹は強いんじゃぞ!」

「思わず食べちゃいたくなっちゃったわ!」

「ぶっ殺すぞ、クソババぁ!」

「もう、小梅ったら。いつからそんな口汚くなったの? 大丈夫よ。ちょっと味見するだけだから。ほら、小梅は未経験だから夏樹くんをちょっとだけ鍛えておいてあげる」


 小梅の母にして、サキュバスの母でもあるリリスの奔放さに、怒鳴り疲れて大きくため息をついた。


(なーんで、夏樹はクソ親父といいおかんといい、癖のあるのに気にられるかのう?)








 〜〜あとがき〜〜

 実は、リリスさんは夏樹くんと会っているときは、頑張って大人の余裕(張りぼて)を見せていました。


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