9「霊能力者ってファンタジーじゃね?」②




 夏樹は、警察署長青山久志の説明を受け、霊能力者についての知識を得ていった。


 霊能力者とは、『霊能力』もしくは『霊力』を持ち、使うことで、悪霊、妖怪、悪魔といった人とは違う種族の中でも特別人に害を与えるものと人知れず戦う者を指す。

 テレビで『霊能力者』を自称し、露出している人間はだいたい偽物らしい。ときには本物が偽物っぽくしている場合もあるそうだ。

 霊能力者は、基本的に彼らを管理する『院』という組織に所属し、格付けがされるらしい。

 五級から始まり一級までランクがあり、強さ、または力の特異性で分けられるそうだ。


 霊能力という力ははるか昔から存在しているようだが、科学的な解明はされていないようだ。魂の力と言う人間や、精神の力という人間もいて、ときには感情で力が変動するので感情の力という人間もいる。要はよくわかっていならしい。

 それでも、一応は計測できる機械があるようだが、あまり当てにはならないそうだ。


 あまり理解されていない『霊能力』であるが、人に害なす悪霊、妖怪、悪魔たちには有効であることは昔から証明済みだ。使える者は非常に限られているが、『霊能力者』たちの尽力によって、人々は変わらぬ暮らしを送っているらしい。

 最近では、警察にも『特別災害課』という霊能力者が在籍する課ができたそうだ。もちろん、一般の警察官も在籍しているようだ。


 今回、夏樹に拳銃を向けた者たちは一般の警察官だ。いきなり未成年に拳銃を向けるのはやり過ぎであることはもちろんであり、彼らからも謝罪もあったが、対人の霊能力を持つ霊能者と敵対した場合、発砲も許可されているのは事実だ。

 夏樹は銃に詳しくないので気づかなかったが、警察官が持っていたのは麻酔銃とテーザー銃だったらしい。警察官たちは、未知な力を持つ夏樹に恐怖を抱いてしまったゆえに確認をせずいきなり拳銃を向けてしまったのだ。


 夏樹が協力的であり、青山の存在があったからこそ穏便に済んだが、相手が子供であっても、むしろ子供であるからこそ抵抗するし、力に飲まれることがあるので危険が伴うのだ。

 力の使い方をちゃんと知っていない場合は、使用者にも大きな負担や、大きな後遺症が残る可能性があるので、無力化してしまうのは間違いではない。無論、拳銃を向けられたほうはたまったものではないが。


 一般的に『霊能力者』と『特別災害課』の存在は公にされていないため、隠されている。向島市警察署の場合の責任者は青山署長のようだ。


「うーん。霊能力者っていうのは、霊能力を使う人で、最近じゃ警察にも霊能力者と課がある、と」

「そうだ」


(俺の力って魔力だと思っていたんだけど、こっちじゃ大差ないのかな?)


 夏樹は、異世界では勇者であり、魔法が使えた。その力は地球でも変わらないが、霊能力という言葉にはピンとこない。漫画や小説で読み、なんとなく存在の想像はできるが、最近だと漫画も小説も魔術や魔法なので、そちらのほうが想像しやすかった。


「ごめん、よくわからないや」

「大丈夫だ。俺もよくわかってねぇ」

「えー」


 適当な青山の返事に、夏樹が肩を落とす。


「俺は、若い頃にいろいろ巻き込まれたんだが……まあ、そんなことはどうでもいい。夏樹も知っているだろうが、俺が警察官になったのはお前のお母さん――春子さんを危険から遠ざけるためだからな! その危険には霊能関係も含まれているんだ!」

「……あー」


(そういえば、おじさんって、お母さんに恋する人だった。妻子持ちのくせに)


 息子同然に可愛がってくれる青山だが、夏樹が物心ついた頃から母にアプローチをしていた。奥さんが公認だから恐ろしい。もっとも奥さんも母の熱狂的なファンだと聞いている。

 母は青山以外にも人気があるので、日々、口説かれているのだが、天然で気づいていないのか、わざとなのか、いつもスルーだ。

 夏樹からすると、歳の割には少々若く見えるおばさんなのだが、青山たちにすると女神のように見えると聞いたことがある。


「夏樹は知らんかもしれないが、若い頃は春子さんもよく霊能関係に巻き込まれてなぁ……本人は気づいていなかったが、俺たちがどれだけ死力を尽くして守ったか」

「そのことを恩着せがましくしないのがおじさんのいいところだね」

「よせやい。命を救った程度で、恩を着せるかっていうんだ」

「……いや、命を救ったのなら恩を着せてもいいと思うんだけど。というか、そんなレベルの危険だったんだ」

「ああ、しかも毎月のように」

「えぇー」

「おかげで俺たちは鍛えられたぜ」


 人ひとりの命の危機を救うことを「鍛えられた」で済ませてしまう青山を素直にすごいと思った。

 夏樹は異世界で人の命を救ったし、なんなら国も世界も救ったが、めちゃくちゃ恩に着せたいし、永遠に感謝していてほしい。


「俺の話はいい! とにかく、力があるなしは自分で決められないからいいとして、頼むから大人しくしていてくれよ。自覚がないかも知れないが、お前のその力や経験は、他の霊能力者たちが喉から手が出るほど欲しがるもんだ。とくに魔剣なんて所有して、伝承にしかない異世界転移なんてことをしているんだぞ。もしも『院』にお前の存在が知られたら、間違いなく面倒ごとになるぞ!」

「さっきも言っていたけど、院ってなに?」

「ちゃんと聞いておけよ! 『院』は霊能力者の管理組織だ。霊能力関連で名家と呼ばれる古い一族連中が昔に立ち上げた組織だが、近年になって霊能力者を管理するようになった。『院』に所属していないと日本だと管理外のはぐれとして捕まる場合があるぞ」

「捕まるんだ!?」

「能力、人格に問題なければ『院』に登録して終わりだが、力を私利私欲で使う奴は、まあ、処罰の対象だわな。この辺は、警察も手を出せなくてな。俺たちが捕まえる場合があるが、向こうさんも自分たちで解決したいのか、極力手を出させてくれねえんだわ」

「それでいいの、警察?」

「よくねえ。だが、知らねえところで解決されてりゃ、なんもできねえんだ」


 青山としても『院』との関係は複雑なのだろう。

 組織の存在を知ったばかりの夏樹にはどうしようもない。

 ただ、一介の中学生が関われることではないので、せいぜい見つからなければいいなぁと思うくらいだった。


「その組織はいいとして、おじさん……俺のことなんだけど、お母さんには」

「わかっている。言わねえ。つーか、言えねえ。どう説明すればいいのかわからねぇ」

「……だよねー」

「ただし、約束しろ。夏樹が『院』に目をつけられることや、力を使って悪さをすれば、春子さんにすべて明かさなきゃいけねえ。俺には夏樹が経験したことをすべて把握はできないが、力の有無くらいは説明できる」

「わかっているよ。馬鹿なことはしない」

「よし。それでいい。中学生なんて、勉強と青春をしておけばいいんだ。血生臭い世界に関わる必要はねえ」

「……そうだね」


 夏樹としても、六年間異世界で戦い続けたので、日本に帰ってきてまで戦いたくない。

 毎日のんびりして過ごし、ゲームやって、動画見て、だらだらしたい。

 力を持っていたとしても、自分から関わるつもりなんてないのだ。


「よし。なら、今日はとりあえず話はここまでだ」

「いろいろありがとう」

「気にすんな」

「ところで、おじさんは霊能力者なの?」

「馬鹿野郎。バリバリの一般人だ」




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