8「霊能力者ってファンタジーじゃね?」①
向島警察署、署長室にて、上下グレーのスウェットに身を包んで困った顔をする夏樹と、制服に身を包んで苦々しい顔をする青山久志がテーブルを挟んでソファに座り向かい合っていた。
「まずは、未成年のお前に拳銃を向けたことを謝罪させてほしい。申し訳なかった」
「それは別にいいんだけど。撃たれてないし、撃たれても対処できたし」
「対処できたのかで、どうして夏樹がはぐれ霊能力者になっちまったのか、おじさんに説明してみ?」
夏樹の背後には、青山署長と一緒にいた刀をもった女性が控えている。
彼女は警察官だが、霊能力者でもあるらしい。
ちらり、と後ろを伺うと、彼女はにこにこと笑顔を絶やさないのだが、なにかあれば刀を抜く雰囲気満々だ。ただ立っているだけに見えるが、構えができているのが分かった。
「えっと、ですね。学校からの帰り道、異世界に勇者として召喚されて六年ぶりに日本に帰還できたので、魔法が使えるかどうか試していました」
「……くだらないこと言うなら、ぶっ飛ばすぞ? それとも妄想癖でもあったのか?」
試しに正直に話してみたが、かわいそうな子でも見るような目で見られてしまった。
夏樹自身、知り合いが同じようなことを言い出したら正気を疑うはずだ。
「いや、待て。夏樹が俺にそんなつまらねえ嘘をつくとは思わん。そもそも、今まで霊能力なんて微塵も関わりがなかった、いや、俺らが必死で遠ざけていたのに急に馬鹿みたいな力を持っていた時点で……ありえるな」
「嘘ぉ! 信じてくれるの!?」
「なんだ、嘘なのか!?」
「嘘じゃないけどさぁ!」
「実を言うと、異世界を行き来した奴は今までいないわけじゃないんだ。もっとも、伝承や伝聞で残っている程度だが……。おじさん知ってるぞ。異世界ラノベってやつだろ?」
「えー、知ってるの? 意外なんですけど!」
「俺も異世界で拳銃使って無双してえなぁ……それはさておき、だ。まさか夏樹がそんな目に遭うと、世の中何が起きるのかわかったもんじゃねえな」
正直、意外だった。
こんなあっさり信じられるとは思わなかったのだ。
自分で言うのもあれだが、胡散臭いにもほどがある。
いくら知り合いとはいえ、警察署長が中学生の言葉を鵜呑みにしていいものかと悩む。
「署長、一応証拠かなにか見せてもらった方がいいんじゃないっすか?」
「馬鹿野郎! 夏樹が俺に嘘をつくわけがねえだろう!」
「立場的に確認しておいたほうがいいと思うっすけど!」
「うぐっ……まあ、なんだ、証拠があるのなら、俺としても今後動きやすい。どうだ?」
部下の指摘を受けた署長に尋ねられ、夏樹は虚空に手を突っ込んだ。
「――っ」
「へぇ」
驚く二人をよそに、夏樹は『アイテムボックス』の中を漁って、一振りの両刃の剣を取り出した。
「なんだこりゃ、禍々しい力を感じるぜ」
「ちょ、ま、その剣呪われていないっすか!?」
「えっと、異世界で魔王の配下だった四天王をぶっ飛ばしたときにもらった戦利品の魔剣なんだけど」
「異世界の魔剣だと!?」
くわっ、と目を見開いて青山署長は真剣を凝視する。
手を伸ばしたが、剣に触れようとしたところで理性を取り戻したみたいに引っ込めた。
「おじさん?」
「いや、触っていいものかと思ってな?」
「別に、ただの魔剣じゃん」
「ただのって、……お前、これがどれほどの代物か。いや、わかっていないよな。霊能力者にも心当たりがないようだったしな」
「そうそう、それだよそれ! おじさん! 霊能力者ってなに!? そんなすごい存在がいたなんて!」
「……異世界からの帰還者の方がすげーっすけどね」
女性の嘆息が背後から聞こえる。
そんなことを言われても、霊能力者などという存在と十四年間縁もゆかりもなかったのだ。実際に体験した異世界転移よりも、希少性がある。
なによりも、地球にファンタジーなどないと思っていたので、驚きが大きかった。
「話をする前に、まずその魔剣をしまってくれ。預かりたいのは山々だが、どうやって保管していいのかわからんので見なかったことにしたい」
「えっと、はい」
夏樹には青山の言うことがあまり理解できなかったが、言われたように魔剣をしまう。
「あーあー! もっと見たかったすねー! 私も異世界で魔剣とかゲットしたいっす!」
「あ、じゃあよかったら、これをあげますよ」
女性が魔剣が欲しいと言うので、先ほどの魔剣ではないが、魔族の剣士からもらった魔剣を一振り取り出して渡す。
「え、あ、はい、どうもっす」
「どうもじゃねえ! もらうな! 夏樹も渡すな!」
「でも、使い道がないんで。別にいいですよ」
「使い道がないからといってだな! そもそも希少性はないのか!?」
「えっと、確か、倒した剣士曰く、世界に十本しかないとか?」
「めちゃくちゃ希少じゃねえか! おい、抱き抱えてないで、お前も返せ!」
剣士ではない夏樹には、宝の持ち腐れであり、魔剣は一番火力が出る魔王の使っていた愛剣があるので他はいらない。
異世界のものと言っても、思い出の品ではなく、あくまでも戦利品なので思い入れもない。
「いやっす! 魔剣太郎は私の相棒っす!」
「だっせぇ名前だな! あと、名付けんな!」
コントみたいなことを繰り広げる、青山署長と女性警官のやり取りをしばらく眺めていたが、そろそろ説明が欲しくて咳払いをする。
「それで、あの、霊能力者の説明を」
「ああ、そうだった。すまん。魔剣はあとで力づくで奪って返却するから待っていろ。あと、異世界のものを簡単に渡すな、いいな!」
「わ、わかりました」
「絶対返さないっすから!」
魔剣を抱きしめる女性を睨むと、青山は夏樹に真剣な顔を向けた。
「よし。確認させてくれ。まず、夏樹は異世界に召喚され、六年間戦って魔王を倒して帰還した。それで、力の有無を海上で試したってことでいいな?」
「はい。力がを把握できたので、帰ろうかなって思ったら警察の方々に囲まれて。びっくりしました」
「びっくりしたのはこっちだ。観測係りがありえないほどの力を感じ取って失神したんだぞ」
「それはごめんなさい。でも、軽く力を使っただけで、大袈裟な」
「……すー、はー。今は突っ込まん。話を進めるぞ」
「はい。お願いします」
大きく深呼吸を始めた青山署長に夏樹は首を傾げる。
背後では、女性警官も絶句していた。
「いいか、夏樹。日本には、人知れず人々を守っている霊能力者って存在がいる。霊力を持ち、さまざまな力を使う者たちだ。警察も昔から協力関係で、今では特別災害課なんて霊能力者が関わる部署もあるんだ」
「うわぉ、意外と日本もファンタジーだったんだね」
「異世界系のお前が言うな!」
隠れた存在を知って感心する夏樹に、青山署長が突っ込んだ。
※署長の苗字を青山に変更いたしました。
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