3「なんか不穏な空気じゃね?」
――S県向島市某所。
「――っ、なんという魔力。悪魔……いいえ魔族でもこれほどの力を放出する者が今まで人間界に来たことがあったでしょうか」
首都東京から離れた地方都市に、古の時代から人々を陰ながら守護する者たちがいた。
水を操ることに特化した霊能力者を代々輩出してきた名門『水無月家』三十三代目当主水無月茅は自宅の一室で正座し目を閉じて瞑想をしていたが、類をみない魔力の放出に気づき大きく目を見開いた。
向島市の中心部から、強い衝撃波のような魔力が届いて来たのだ。それも、一定以上の力を持たない者には感じ取ることができない上位の力だった。
茅は水無月家の当主として力がある。あるゆえに感じ取ってしまった。
「誰か」
「柊がここに」
茅が声をかけると、障子が静かに開けられ、縁側に膝をつく三十歳ほどの女性がいた。
伸ばした黒髪をポニーテールにし、前髪は垂らし、顔の半分を覆っている。髪の下には黒い眼帯をつけた、黒いスーツの女性だった。
「柊。今の魔力を感じましたか?」
「はい。身震いするほどの恐ろしい魔力でした」
「あれほどの魔力を発することができるのは、魔族でしょう。それも、上級に近い」
「……お言葉ですが、程度の低い悪魔などはともかく、魔族ほどになるとおいそれと魔界から出ることができないはずです」
「わかっています。それでも、今まで多くの魔族が人間界にやってきました。ですが、我々霊能力者で対応できた。……しかし、今の魔力の持ち主には勝てるかどうか以前の問題です」
冷や汗を流す茅に、柊は無言で応える。反論できなかったのだ。
水無月家をはじめ、霊能力者たちが人知れず人間を守っている。
なにから人間を守るのか――それは、悪霊や妖怪、悪魔、魔族といった人外の存在からだ。
霊能力者が敗北するということは、人間たちに人外からの危害が届く危険性があるということ。本来なら、霊能力者の名家である水無月家の当主が弱音など吐いてはいけない。いや、許されない。
だが、茅は弱音を吐いた。つまり、それほど規格外の相手がこの向島市にいるとわかっているのだ。
「極力犠牲は出さないように。ですが、必ず魔力の元を見つけなさい」
「かしこまりました」
女性――柊が消えるように下がった。
ふう、と茅が大きく息を吐く。
間違いなく、この向島市に人間では太刀打ちできないなにかがいる。
「……最悪の場合は、神にご助力願わなければならないかもしれませんね」
――適当に魔力を放出した由良夏樹の知らないところで、事は動き出した。
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