しばらく重苦しい空気が流れ…新人の男性も、ここで折れて

主任に取り次ぐかどうか、迷っていた。

チラリと目を上げると、主任がこちらをじぃっと見ている。

「何をしているの?」

早速声がかかる。

(やばい!)

新人はピクリと、肩をこわばらせる。

やはり、自分の会話を聞いていたのだ…と思う。


「あのぉ、お電話です」

 おそるおそる受話器をまっすぐに、差し出す。

 それを、主任がキュッと眉をしかめて、見つめると

「どなた?」

冷たい口調で、新入りに聞く。

(やはり、聞かれた!)

しまった…とばかりに、新人はうなだれる。

「それが…お名前を聞いても、名乗らないんです。

 高岸さんに変わってくれ、の一点張りで」

こんなので、伝わるのか?

うつむいたまま、きゅっと目を固くつむる。

(叱られるぞ!)

恐怖のあまり、顏をあげることが出来ない。

「もう、あなた…子供じゃあないんだから…

 ちゃんとしなさいね!」

明らかに、こちらの空気にイライラしながら、こちらを見つめると、

何か思い付いたのか、いきなりハッとした顔になる。

「もしかして…お客様じゃあないのね?」

真面目な顔つきで、彼を見つめる。

「えっ?さぁ?

 主任のことを、ご存知のようでしたが?」

内心ビクビクしながら、それでも言うと…

チョンチョン

すかさず側に来た先輩が、新人の腕をこづく。

「いいから、早く取り次ぎなさい!」

小声だが、キッパリとした口調で彼に言う。

「えっ、でも…」

グズグズとためらっていると、

「もういい、とにかく変わるわ」

そう言うと、さらに先輩に向き直る。

「この人に…キチンと指導しておきなさい」

ピシリと鋭い口調でそう言うと…

あわてて通話ボタンを押した。

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