第2章 伝説のホテル

「新規のご予約が入りました」

 新入りの男性従業員が、デスクのパソコンから顔を上げると、

少し得意そうに、上司である主任にそう告げた。

「いつ?」

中年のその女主任は、険しい顔で彼に聞く。

彼はその視線に、幾分緊張して、ピクリと頬をこわばらせると、

「2週間後です」

液晶画面に目を落とすと、やや引きつった顔で答える。

「じゃあ、何人?」

「え~っと、12人です」

「何泊?」

中年の女は、カタカタとキーボードをたたくと、新人に先を

うながす。

聞き漏れがないか、チェックしているもだ。

「3泊です」

「ふーん」

キーボードの上を、滑るように指先を踊らせて、新人に次々と

質問攻めにする。

「ご職業は?」

「学生です」

「どちらから?」

「えーとぉ」

中年の女性は、メガネのつるに手をやって、キュッとレンズを

鼻に近づける。

「また?」

 それは、思いがけず出た、心の声のようなものだった。

新人は緊張のあまり、胸の動悸がさっきから止まらない。

主任のつぶやきに、耳を傾ける余裕もなく、のん気な顔をして、

「最近、多いですよねぇ~

 こんな何もない街に…何のために、来るんだろう?」

のほほんとした口調で、おっとりとした表情で言う。

 すると主任は、ジロリとにらみつけると、

「間違っても、お客様の前で、そんなことを言ったらいけませんよ」

険しい顔つきのまま、低音のよく響く声で言う。


「ネットですよ」

 別の社員がそう言うと…

軽くハンカチで汗を押さえると、2人の前にあるカウンターに近付く。

「インターネット?」

けげんな顔をすると、主任はキュッと眉を吊り上げる。

「そう」

隣にいる女性従業員も、ひょいっと彼の手元を見る。

「あ、私、それ…見たことがある!」

興奮気味で、嬉しそうに声を上げた。

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