「まぁなぁ、それはそうだけどさぁ~」

 何だか奥歯に物がはさまったような…あまり気乗りのしない

返事だ。

秀人はムキになり、

「それは、ただの噂だろ?

 大丈夫だって!」

何とか説得しよう…と、秀人はさらに、賢人の顏をのぞき込む。


 昔からそうだ。

何かをどうしても欲しいと思ったら、手に入れるまで、てこでも

動かないのだ。

(また、始まった)

うんざりするように、賢人は目をそらす。

だけどあえて、口にはしない。

なぜならば、秀人にはいくら言ったところで、通用しないからだ。

「大丈夫だって!

 危ない所に近づかなければ、いいんだろ?」

「うーん、まぁ、そうだけどさぁ」

幼なじみの賢人には、もはや打つ手がない、とさじを投げだしている。

「肝試しとか、女子は大好きだろ?

 そうだ、吊り橋効果ってやつもあるからなぁ」

何とか「うん」と言わせよう…と、ひるむことなく、さらに言いつのる。


「あら、まだやってるの?」

 その時、声がした。

秀人の彼女のカオリだ。

スラリと形よく伸びた足を、ミニスカートからのぞかせて、

形よく整った膝小僧を、わざと見せびらかすように、ゆっくりと

近づいて来る。

 だが逆に秀人は、一瞬チェッと舌打ちをする。

「いいか、わかったな」

すばやく賢人の耳元にささやいた。


「いや、もう帰るところだよ」

 先ほどとは打って変わって、爽やかな笑顔を素早く貼り付ける。

「いつにするか、もめてたトコだよ」

ニコニコとそう言う。

「あっ、そうなの?」

カオリはスルリと秀人の傍らに近付くと、上目遣いで彼を見つめる。

「あの噂のとこでしょ?

 化け物が出たら、どうしよう?」

むき出しの腕をさすると、怖がるフリをして、秀人の腕にすぃっと

自分の腕を、からませる。


「じゃあ、また!」

 満足気に、片手でカオリの肩を抱き、片手を軽く上げると、そそくさと

その場に背を向ける。

その姿を見送りながら、

アイツには、困ったもんだ…

と、賢人は心の中でつぶやいていた。

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