6
母さんが早くに亡くなり、父と2人暮らしだった珠紀は、
こんな風に浮ついていても、いいのだろうか…と、
いささか罪悪感を感じる。
(父さんは…今頃、どうしているのだろうか?)
遠く離れた、実家の父親のことを思う…
急に黙り込む珠紀に気付いたのか、受話器の向こうでは明るい声で
「珠紀ってさぁ~ファザコンもいいけど、そろそろ卒業したら?」
さり気なく言うので、それだとダメなの、と思う。
「一生、卒業なんて、しません!」
ちょっとムッとした口調で、語気を強めて珠紀は答える。
「ね、あの子は、どう?」
「あの子って?」
クラブハウスに入って来る女の子たちを眺めながら、男子学生たちが
一斉に色めきだつ。
「今年は中々、豊作だなぁ」
ひそかに品定めする御仁も現れる。
毎年人気のサークルには、他大学からも、入会希望の女の子が
それなりに集まるのだ。
青田刈りならぬ、早めにキープしようとするのは、毎年恒例の行事だ。
それにしても、みんな本気で、テニスがしたくて、入って来るのだろうか?
秀人はなぜか、冷めた目で、女の子たちを眺めた。
正直自分はモテル、と自覚している。
自分からいかなくても、同級生に限らず、後輩や卒業生に至るまで、
一方的に言い寄られたり、lineのIDを渡されたりするのだ。
(もっとも…おまえ、ずるいぞ、と思われているだろうけど…)
黙ったままで、遠巻きにして、女の子たちを見ている秀人に、
ヘラヘラ笑いながら、悪友の賢人が、秀人に近付いて来た。
「ホント、シュートさまさまだな!」
おどけてペコリと頭を下げる。
「お前のおかげで、いつも入れ食い状態だもんな!」
もっとも秀人には、彼女がいる。
一応公認の仲、ということになっているのだが、秀人としては、カオリは
ガールフレンドの1人として、認識している。
「おまえさ、その辺、どうなっているの?」
責めるようにして、この友人はさぐりを入れる。
「さぁ、どうだかなぁ」
わざと秀人ははぐらかす。
敵を欺くには、味方から…ということだしな。
秀人はニヤリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます