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母さんが早くに亡くなり、父と2人暮らしだった珠紀は、

こんな風に浮ついていても、いいのだろうか…と、

いささか罪悪感を感じる。

(父さんは…今頃、どうしているのだろうか?)

遠く離れた、実家の父親のことを思う…

急に黙り込む珠紀に気付いたのか、受話器の向こうでは明るい声で

「珠紀ってさぁ~ファザコンもいいけど、そろそろ卒業したら?」

さり気なく言うので、それだとダメなの、と思う。

「一生、卒業なんて、しません!」

ちょっとムッとした口調で、語気を強めて珠紀は答える。


「ね、あの子は、どう?」

「あの子って?」

 クラブハウスに入って来る女の子たちを眺めながら、男子学生たちが

一斉に色めきだつ。

「今年は中々、豊作だなぁ」

ひそかに品定めする御仁も現れる。

 毎年人気のサークルには、他大学からも、入会希望の女の子が

それなりに集まるのだ。

青田刈りならぬ、早めにキープしようとするのは、毎年恒例の行事だ。

 それにしても、みんな本気で、テニスがしたくて、入って来るのだろうか?

秀人はなぜか、冷めた目で、女の子たちを眺めた。


 正直自分はモテル、と自覚している。

自分からいかなくても、同級生に限らず、後輩や卒業生に至るまで、

一方的に言い寄られたり、lineのIDを渡されたりするのだ。

(もっとも…おまえ、ずるいぞ、と思われているだろうけど…)

 黙ったままで、遠巻きにして、女の子たちを見ている秀人に、

ヘラヘラ笑いながら、悪友の賢人が、秀人に近付いて来た。

「ホント、シュートさまさまだな!」

おどけてペコリと頭を下げる。

「お前のおかげで、いつも入れ食い状態だもんな!」

 もっとも秀人には、彼女がいる。

一応公認の仲、ということになっているのだが、秀人としては、カオリは

ガールフレンドの1人として、認識している。

「おまえさ、その辺、どうなっているの?」

責めるようにして、この友人はさぐりを入れる。

「さぁ、どうだかなぁ」

わざと秀人ははぐらかす。

敵を欺くには、味方から…ということだしな。

秀人はニヤリと笑った。

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