「また、またぁ~」

 玲はケラケラと笑う。

「珠紀って、ホント、真面目ちゃんなんだからぁ」

かくいう玲は、慎重派の珠紀と違って、とても思い切りのよくて、

大胆なのだ。

だがこれぞ、という時にいつも、思いきった行動をするので…

常々尊敬するのだ。


「私は、行くわよ!

 だって、面白そうじゃない」

 どうして珠紀が迷うのか、その理由がわからない、という口調で

玲ははっきりと言う。

「えぇ~」

どちらかというと、珠紀は考えに考え抜くタイプだ。

中々、玲のような決断が出来ないのだ。

「珠紀の分も、申し込んでおくわよ!」

これでは、らちが明かない…と、いつまでもグズグズしている珠紀に、

シビレを切らして、玲が打ち切ろうとする。

珠紀はタオルを首にかけると、

「えっ、ちょっと待ってよぉ」

あわてて受話器の向かって、叫んだ。

だが受話器の向こうの玲は、まったくペースを崩すことなく

「大丈夫よ!先輩もいるし、みんなもいるし。

 それよりもさぁ、とっておきの場所って、何かワクワクするじゃない!」


 どうやら玲は、興味を持ったようだ。

大学に入ったばかりで、右も左もわからない2人だ。

玲に誘われて、しぶしぶ国立大学のサークルに来ただけでも、

珠紀にとっては、十分思い切ったことなのに…

さらに、コンパにも参加するなんて…

「ねぇ、何だか、女子大生って感じ、してこない?」

上ずった玲の声が、スマホから響いて来る。

「ん…まぁ、そうだけど…」

何となく、このノリにまだついていけない、珠紀だ。


 こんなに浮かれていて、本当にいいのかしら?

ふいに珠紀は、冷静になる。

今まで父親と2人で、家事をしながら、高校に通っていた。

玲と同じ大学へ行く、と決まった時には、父は少し寂しそうな顔を

していた。

「まだ、珠紀は若いのだから、色んな経験を積むといい。

 堂々と胸を張って、生きていくんだよ」

そう言って、送り出してくれたのだ。


 

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