第175話 人体改造を使えば

 ヒサヒト先輩は、地に銀の剣を突き立てて、両手を広げた。


 戦う相手の目の前で、隙だらけの行動だ。

 この隙を狙って斬りかかることもできたが……それは無粋ぶすいだろう。

 ヒサヒト先輩は本気で戦ってくれると言っている。

 ならば、俺も、その本気にこたえるまでの話だ。


「僕の【人体改造魔法能力】をつかえば、こんなこともできる」


 手持ちぶさたに揺れていた手が、そのとき――


「おっと」


 ヒサヒト先輩の右手が、ヒサヒト先輩の首を、締めようとした?

 それを止めたのは、同じくヒサヒト先輩の左手だ。


 自傷行為だ。

 見守る観衆には、意味が分からない光景にしか映らなかっただろう。

 俺にも、一瞬、訳が分からなかった。


 さりとて、考えれば、俺はこの光景を誰よりもよく知っているはずだ。

 意のままにならない手、自傷行為、病理、症状、すなわち、これは……


「ふふ、不便ですね。自分の意にそぐわず、別の意識によって動かされる“手”とは」


「ヒサヒト先輩、まさか、あなたは……」


「僕は自分が嫌いですからね。本心では自分なんて、死ねばいいと思っている。だから、きっとこの“手”は自分が許せない……なるほど、まるでもうひとりの自分がいるようだ」


 俺がおどろき、戦慄するそのときに、ヒサヒト先輩は楽しそうに言う。


「【異星人の手エイリアンハンド】、僕もひとつ、つくってみましたよ」

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