第174話 だれにでもできることだ

 銀の剣で俺の刃を押し払い、ヒサヒト先輩が一度、距離を取った。


 本気……手加減をされているとは思わないが、ヒサヒト先輩は、この戦いで、まだ自分の魔法能力を使っていない。


 おそらくは【人体改造】の魔法能力を用いた秘策があるのだろう。


 以前の俺なら、委縮して、卑屈に流れていたのだろうが……


「来い、受けて立つ」


「勇ましいですね。それでこそ、僕があこがれた少年だ」


 ヒサヒト先輩が、どこか誇らしそうに、笑ってくれる。


 とはいえ、戦いの途中で、そんな笑みは一瞬の誤差だ。


「青虎くん、学園長から、キミの不幸な“手”については聞いている。その症状は、日常生活を送るのに、さぞかし不便だったことでしょう」


「それがどうした? あなたの本気には、おしゃべりが必要なのか?」


「急かさないでほしい、僕はキミの歩んできた道に、敬意を表しているんですよ」


 ヒサヒト先輩は、いつかの学園長と似たようなことを言う。


「しかし、キミ個人の不幸だとか、努力だとかは、他人には何の関係もない話だ」


 同感だ。個人の不幸などは、しょせん他人事。共感することさえおこがましい。


 だからこそ――と、前置いて、ヒサヒト先輩は言う。


「僕がこの“手”で証明しましょう。キミにできることは、誰にでもできることだと」

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