第176話 僕がこの手を支配する

「手を……俺の手と同じ症状を、自分で、つくったのか?」


「ええ、キミの不幸と、強さのみなもとを、僕は完璧に再現した。これで僕とキミの立場は、まったくの対等というわけです」


 バカな、そんなことが可能なのか?


 確かに、俺の“手”は魔法能力ではなく、生来の病理で、特殊能力ではない。

 理屈の上では、誰にでも起こりうる悲劇で、単なる症状なのだ。


 しかし、自らを改造できる【人体改造】の魔法能力を使ってまで、意にそぐわない手を創り出す必要があったのか?


 不便なだけだ。言う事を聞かず、勝手に動く手なんて、めんどうなだけだ。

 日常生活で苦しみ、半ば人生をめちゃくちゃにされた俺が言うのだから、間違いはない。


 ヒサヒト先輩も、今は自分の首を絞めようとする右手を、どうにか抑えこんでいる。


 だというのに、ヒサヒト先輩は苦労の素振りさえ見せず、笑うのだ。


「たしかに、このままでは使い物にならない。異なる意識によって動かされる手は、アドバンテージでもあるが、そのままでは、だだをこねる子どもと変わらない」


 そこでヒサヒト先輩は、こう提案する。


「ならば、言う事を聞いてもらいましょう。つねに従順に、つねに僕の意識にそぐうように、それでいて、すべての動作を無意識に補助する。そんな“手”を、つくるとしようか」


 【人体改造】の魔法能力を使って、という話だ。

 語るに夢のような話だ。俺はあこがれながらも、悔しく思う。

 そんなことが簡単にできるなら俺の人生は、俺が生きてきたすべての道は……


「僕がこの“手”を支配する。これで、キミの“物語”は完成だ」

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