第172話 こんなもんじゃない

 互いが駆け出し、斬撃を見舞ったのは、ほとんど同時だった。


 【偽虎】と銀の剣が噛み合い、硬質な金属音が連鎖する。


 合宿の時と同じ、いや、それをはるかに超える速度で、互いが互いに刃をふるう。


 合宿の時と比べれば、俺もいくらか強くなった自負があるのだが……


 しかし、そんな付け焼刃の自信は、ヒサヒト先輩の全力を引き出すには、微塵みじんも足りていない。


 神速。

 俺の“手”と、【偽虎】の意識を利用して、俺は斬撃を繰り出すが……


「通じませんよ、その程度の手は、僕に通用しない」


 なぜるように受け流され、すべての斬撃を軽くあしらわれてしまう。


 手加減しているわけではないのだが、なかなかに悔しい気分だ。


 やはり全力だ。ヒサヒト先輩と渡り合うには、血を吐くような全力が必要なのだ。


「負けんなよ! 青虎! おまえなら、やれる!」


 レイジの声援が聞こえた。そうだな、俺はおまえとの友情にむくいたい。

 超神速。合宿の最後に、勝利をつかんだ時と同じだ。

 そしてまた、レイジの最強レベル9に匹敵した時と同じ、超神速の斬撃が必要だ。


 通じないなら、超えて上を行くまでだろう。


「こんなもんじゃない。いくぞ、【偽虎】」


 【偽虎】の意識に呼びかけて、俺は斬撃を繰り出し、銀の剣を打ち払った。


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