第170話 奇跡を起こせる者には……

 ヒサヒト先輩は、どこか、遠い目をしていた。


「奇跡を起こせる者には、よろこびを分かち合える仲間がいるものだ」


 聞いたことのある言葉だ。合宿のときに、ヒサヒト先輩が言ってくれた言葉かな?


「これは、僕が子どもの頃に好きだったアニメのセリフでね。ふふ、受け売りです」


「アニメですか。意外ですね」


「男には誰しも、どこか幼いところがあるものだ。キミもそうでしょう?」


 言われてみれば、そうかもしれない。俺は納得して、うなずいた。

 ヒサヒト先輩は思い出をなつかしむように微笑む。


「勇気のある少年が、仲間たちと共に、頂点の栄光にのぼりつめる。僕は昔、身体が弱かったから、そういう夢物語にあこがれていたんです」


「夢物語……」


「青虎くん。よろこびを分かち合える仲間と共に、キミは今日まで歩いてきた。まさに夢物語のヒーローだ。僕にとって、キミは本当にまぶしい、あこがれの存在なんですよ」


 おかしそうにクスクスと笑って、ヒサヒト先輩が照れ隠しみたいにした。

 しかし、語られた言葉は、決して照れ隠しのソレではないとわかる。

 まぶしい、か。どんなふうに反応したらよいのか、俺にはわからなかった。


「僕は強くなった。隣り合える仲間は、やはり誰もいない。それでも、青虎くん、キミのような少年に勝つことができたなら……僕は少しだけ理想に近づけるのかもしれない」


 駅に着いた。去り行くヒサヒト先輩が、どこか俺とそっくりな笑い方で、言う。


「決着をつけよう。明日の試合で、キミが育てた“現実”を、どうか僕に見せてくれ」

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