第167話 あんただから

夜神青虎やがみあおとら


 俺を呼びとめる声があった。


 振り向くと、赤木あかぎココロが真剣な顔をして、立っている。


「なんだ、いきなり? フルネームで人を呼ぶなよ」


「し、仕方ないでしょ! 元々、そんなに交流がないんだから!」


 真剣から一転して、恥ずかしさで顔を赤くして、ココロが言った。


 だから、何の用だ? と思って俺が待っていると、ココロは表情を作り直す。


「勝ったわね、準決勝。約束通り」


「ああ、次は決勝戦だ。いい勝負をしてみせるよ」


「私も元気をもらったわ。ありがと、あんたともいろいろあったけど、心根は、悪いやつじゃないのかもねー、陽花がなつくわけだわ」


 心外だな。俺は別に悪いやつじゃない。

 そのむねをココロに伝えてやると、彼女は苦々しくまゆをひそめる。


「はあん? 入学初日に私の首を斬り落としたのは誰だったっけ?」


「それは申し訳なく思うよ」


「ホント変なやつ……ま、そんなあんただから、陽花を任せられるのかな」


 俺に聞こえないよう、なにかをつぶやいて、ココロは穏やかな表情で微笑む。


「勝ちなさいよ! 私の声援を裏切ったら、許さないんだからね!」

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