第162話 生徒会長の過去

 ツバメ先輩が意を決した風に、言う。


「ヒサヒトは、もともと、レベルゼロの能力者だった」


「は? それは……」


「うそじゃない。小学校までのあいつは、間違いなく無能力者レベルゼロだった」


「体も弱かったんだ。学校も休みがちで、いつもクラスの日陰にいた……」


 過去を思い出すようにして、アスカ先輩が少しだけさみしそうな顔をする。


 しかし、俺たちの視点ではそれはおかしな話に聞こえる。

 魔法能力の才能というのは、天賦てんぷの才だ。

 人間に生まれつきに決定されているもので、後天的な能力ではない。


 現在レベル9のヒサヒト先輩が、昔にレベルゼロだったとは、どういうことか?

 俺がそのむねをたずねてみると、ツバメ先輩が答えてくれる。

 

「あいつの場合は、すこし状況が特殊なんだ。どんな魔法能力を持っていても、使えなければ無能力者と同じだ。その理屈はわかるな?」


「はい、当たり前の話です」


「あいつは……体が弱かった。生まれつき虚弱体質だったんだ。学校でも俺とアスカに、いつも守られてばかりで……だが、あいつは、ソレは嫌だと言っていた」


「病気……というと、ヒサヒトくんは嫌がるけどね。生まれつきの体質は医療魔法でも変えられなかったんだ。でも、ひとつだけ、彼の望みをつなぐ糸があったの」


 望みをつなぐ糸……アスカ先輩から目配せを受けて、ツバメ先輩がその正体を明かす。


「それが医療用ナノマシン。魔法とは違う、人類の技術だ」


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