夜神青虎と天道ヒサヒト

第161話 ヒサヒトくんが……

「ごめんね、ヒサヒトくんが失礼なことをしちゃって」


 放課後、将棋同好会の部室棟で、アスカ先輩が頭を下げた。


 俺と、右手を治療したレイジは、そろって複雑な気持ちで謝罪を聞いている。

 今、この場には将棋同好会の他に、ツバメ先輩が同席している。

 失礼、というのは準決勝の余韻を台無しにしたことに違いないのだが……


「いやいやいやいや! アスカ先輩は悪くないですって! あの野郎がわけのわからない文句をつけてきたのが問題ですし!」


「レイジくん、そう言ってくれるのはうれしいけど、やっぱり彼は私の友達だから、謝りたくもなるよ。青虎くんとレイジくんが最高の勝負をしたのに、それを邪魔したんだから」


「その通りだ。生徒の模範となるべき生徒会長の、するべきことではない」


 付き合いの長い友人だからこそだろう、ツバメ先輩も辛辣な評価をした。


 友人に見下げられてまで、ヒサヒト先輩はなにをしたかったのか?

 それはやはり、本人にしかわからない思惑おもわくなのだろう。

 知りつつ、俺は不思議に思って、先輩ふたりにたずねてみる。


「ヒサヒト先輩は、ああいうことを普段からするんですか?」


「しないよ! ヒサヒトくんは、普段はおだやかで、のらりくらりしているけど、人の心を傷つけるようなことは、絶対にしない!」


「絶対は言いすぎだが……あいつはしないさ。今回がおかしいんだ」


 アスカ先輩も、ツバメ先輩も、友人の行動に心を痛めているようだ。

 わずかなためらいを経て、ツバメ先輩が、口を開く。

 

「おまえたちには、ヒサヒトのことを、話した方がいいかもしれないな」

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