第160話 待っていますよ

 見守る陽花が悲鳴をあげた。

 【理想模倣りそうもほう】で、認識の限り、ありとあらゆる攻撃が通用しないレイジに対して、ヒサヒト先輩は、ただ右手の拳で痛撃を叩きこんでみせる。


 何が起きたのか、それは間近で見ていた俺にさえ、よくわからなかった。

 可能性としては、“死角”か? 人間の目には盲点がある。その盲点をぬう形で拳を繰り出すことができれば、“見えない”攻撃を繰り出すことができるのだが……


 両目を持ち、動き続ける人間を相手に、そんな真似ができるはずはない。

 できたとして、それは正しく人間業ではない。


 地に沈められたレイジが、立ち上がれずに、苦悶をうめいている。

 

 ヒサヒト先輩は、レイジの無様を、熱が冷めたように見下ろしている。


「……そうですね、僕としたことが、年甲斐もなく熱くなってしまったようだ」


 銀の剣をおさめ、ヒサヒト先輩は俺たちに背を向けた。


 熱くなってしまったとは、言葉通りなのだろうが、ヒサヒト先輩が何を望んでこんな暴挙に出たのか、それはやはり誰にもわからない。


 ただひとつ確かなのは、俺はこの人を、決勝戦で倒さなければならないということだ。


「ヒサヒト先輩……」


「待っていますよ、青虎くん。次は、正真正銘、学園最強の能力者を決する戦いだ」


 ヒサヒト先輩は振り向くことさえせずに、俺の、はるかな高みに立つ。


「青虎くん、僕は、キミの“最強”に期待する」

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