第159話 今、この場で

「すばらしい、本当にすばらしい戦いだった。無能力者レベルゼロ能力者レベル9に立ち向かい、真っ向から打ち破る。この舞台に立ち会えたことを、僕は光栄に思います」


「ヒサヒト先輩?」


「たが、まだ足りない」


 ヒサヒト先輩は、自らの魔法能力で銀の剣を呼び出した。

 観衆が戸惑いでざわめく。

 あわてたようすのツバメ先輩がヒサヒト先輩を止めに入る。


「ヒサヒト!? おまえ、なにを考えている!?」


「勝負ですよ。僕は青虎くんと勝負がしたい。この上なく、今日、最高に充実した、“最強”の青虎くんと、僕は、今この時に、勝負がしたいんだ」


 ツバメ先輩をふりきって、ヒサヒト先輩が、ゆっくりと歩んでくる。

 横暴だ。わけのわからない横暴と言える。

 しかし、学園最強の能力者の横暴には、教師でさえ手が出せない。

 そのとき、レイジが俺とヒサヒト先輩の間に入って、文句を言う。


「おいおい会長様、決勝戦は明後日だろ?」


「問題ありませんよ」


「問題大ありだろうが……それに青虎は疲れている。フェアじゃない。どうしてもやるっていうなら、俺が相手になるぜ? レベル9とレベル9だ。ちょうどいいさ!」


 錆びた剣を左手で拾いなおして、レイジが大いに強がった。

 万全ではない状態で、さりとてレベル9の能力を持つレイジは、しかし――


 ただ一度の暴力。

 銀の剣さえ使わない右の拳の一閃で、グラウンドに叩き伏せられた。

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