第157話 抜刀

 この世のすべての物事には避けられない終わりがあるものだ。


 俺とレイジの戦いも、終わりに近づいていた。


 レイジの知覚の限界に迫る超神速の斬撃だが、あと一歩が届かない。

 対して、全身に切り傷を刻んだレイジも、今は出血で疲労ひろうが色濃い。


 お互いにこれ以上の攻め手がなく、刻一刻と体力の限界が近づいていた。

 そうでなければ、タイムアップで試合終了か? それはあまりにもつまらない。


 俺もレイジも、そんな陰気な幕引きは望むところではない。

 熱狂を、全身全霊を投じた勝利にこそ、俺たちは自分のありかを求めている。


 俺は至近距離のクロスレンジから、更に一歩を踏み込んだ。

 一歩を踏み込んだ、その分だけ距離が縮まり、目と鼻の先に、相手の剣が見える。

 問答無用のハイリスク……だが、刃が近くなるのは、戦う相手も同じだろう


「いくぞ、【偽虎にせとら】」


 ギリギリの一線で、俺は考える。

 知覚と認識がレイジの能力の根本であるならば、“見えなく”すればよいのだ。

 俺は半身の体勢で、【偽虎にせとら】の刀身を後ろに隠す。


 半ば見えない場所から、超神速と不可知の斬撃を叩きこむ。

 俺も体力の限界だ。おそらくは、これが最後の交差になる。


 この斬撃を受けきれば、レイジの勝ち、そうでなければ――


「俺の、勝ちだッ!」


 鈍い光が、閃く。


 そのとき、錆びた剣の残骸ざんがいと、あざやかな出血が空を舞った。

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