第156話 あの場所に立つ者

 勝負を見守る者、とりわけ風紀委員長のツバメ先輩が言う。


「今年の新入生は豊作を通り越して、すさまじいな。期待のホープとはこのことだ……俺たち上級生も、うかうかしていられないぞ、ヒサヒト」


 ツバメ先輩のとなりに立つ生徒会長のヒサヒト先輩は答えない。


 無言をつらぬく隣人を不思議に思ったのか、ツバメ先輩が問い直す。


「どうした? ぼーっとして、おまえらしくもない」


「どうして……」


「ヒサヒト?」


「どうして、あの場所に立っている者が、僕ではないんだ」


 悲嘆と呼ぶのがふさわしい。暗く沈んだつぶやきだった。


 ツバメ先輩がヒサヒト先輩の両目をのぞきこむことはない。


 さみしそうな横顔が、ツバメ先輩に、それ以上の追求をさせなかったからだ。


 代わりに、ツバメ先輩は悲嘆とは違う、未来の事実を伝える。


「この戦いに勝った者が、おまえの対戦相手だ」


 ヒサヒト先輩は答えなかった。


 そんなことはわかりきっているに、違いなく。


 最高の勝負、最高の熱狂、その中心に立つ者たちをうらやましく思うように、ヒサヒト先輩は、両目をまぶしそうに、細めた。


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