第155話 俺たちの時間

 レイジの目が見開かれた。

 この選抜大会ではじめて、レイジは外傷を受けた。

 かすり傷と呼ぶのもおこがましい、なぜるようなほほの切り傷だった。

 レイジが静かに震えている。

 まさか、自らを傷つける刃に怯えているのか?

 それともやはり……


「そうだ! 俺は、ソレとりたかった!」


 やはり! “英雄”らしく、武者震いか!


 超神速の斬撃にも臆することなく、レイジは距離を詰めてくる。

 クロスレンジ。至近距離でのインファイトは俺も望むところだ。

 ほとんど足を止めて、俺たちは斬り合う。

 俺と【偽虎】の斬撃を……まさしく超反射の連続で受けきるレイジは、切り傷を増やしながらも、決してしりぞくことをしない。

 楽しそうだな、楽しそうじゃないか。

 あまりに楽しそうだから、俺もつい、余計なことを言ってしまう。


「【理想模倣】で、将棋の名人になれば、アスカ先輩にも勝てるんじゃないか?」


「そんな、こすい名人がいてたまるか! 勝負は、自分の力で勝ってこそだろうが!」


 違いない。本当に、余計なことを言ってしまったな。

 レイジは能力者の魔法を、能力者の勝負以外には使うつもりがないらしい。

 ある意味、無能力者だな。レベルゼロの俺には親近感が湧くよ。

 斬撃、斬撃、砕けて飛び散る金属片、受け太刀、また斬撃。


 気づけば俺も、口元に不謹慎な笑みが浮かんでいた。

 認めよう、認めるさ。俺は友人との勝負がおもしろくて仕方がないんだ。


 生まれてはじめて、“対等”を知って、俺たちは、鏡写しの闘志を燃やす。

 友達がいのあるやつだ。

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