第154話 拒絶を斬る刃

「わかっているはずだな。【偽虎にせとら】」


 レイジが効かないと思うものは、効かない。

 レイジが拒絶するものは、レイジを傷つけることができない。

 究極の自己暗示だ。しかしその弱点は、やはり同じく人間の認識に由来する。

 人間の思考と反射は、有限の速度だ。ゆえに、レイジの知覚と認識よりも速く刀を振るうことができれば、あいつの首に刃が届く。


 そんなことができるのか? と問われれば、俺には、まずできないとお答えしよう。

 俺ひとりでは、できない。俺の無意識である【偽虎】に任せても、おそらくできない。


 だがひとつだけ、望みをつなぐ糸があった。

 合宿でヒサヒト先輩に勝った時、その最終最後。

 俺の願いと、【偽虎】の意識が噛み合った、超神速の斬撃。


 ただ一度だけ得た境地を、矢継ぎ早に繰り出せるならば、俺にも勝算はある。


 【偽虎】よ、人の首を斬りたいおまえが、今日はずいぶんと静かじゃないか。

 おまえがレイジの最強レベル9におびえているなら、それもいい。

 その時には、俺は打つ手がなく、この戦いに敗れるだけだ。

 しかし、そうでないのであれば……


「おまえは、尻尾を巻いて逃げたいか?」


 俺は嫌だと、願った。

 悔しさでも、負けん気でもない。

 ここまで、俺と共に歩んでくれた仲間への想いが、今は熱になって心を燃やす。


「俺は、あいつ親友に勝ちたい」


 【偽虎】はなにも言ってくれない。それでいい。


 レイジのほほに血をにじませた斬撃が、こいつの答えだと、知っている。

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