第153話 望まないものには拒絶を

 レイジは錆びた剣を手にして、駆けだした。

 錆びた剣だ。武器としての切れ味は無いに等しい。


 俺は【偽虎】を使って、受け太刀で刃を噛み合わせる。

 錆びた剣を斬り飛ばしてやろうと思ったのだが、さすがにそうはいかない。


 衝突。硬質な金属のぶつかり合いが連鎖する。


 能力者の勝負というには地味な戦いだが……俺は違和感に気づく。

 レイジの戦いは躍動やくどう的で、それでいて隙がない。


 これはレイジが理想とする“英雄”の概念がいねんを模倣した結果なのだろうと思う。

 問題は……俺の刃がレイジに届かない、ということだ。


 錆びた剣に刃を噛み合わせることはできる。

 だが、レイジの素肌に刃を届かせようとした時に、俺の刀は不可視の力場のようなものに押し返されてしまうのだった。

 無理な力を加えれば、おそらく刀が折れる。それほど強い力だ。


「なるほど、インチキだな。望まないものには拒絶を、ということか」


 レイジが効かないと望めば刃物も爆弾も効かない……どうやらそれは本当らしい。

 俺の立場では、ただひとつの方法をのぞいて、勝ち目がない。

 負け戦だ。俺は一周回っておもしろい気分で言わせてもらう。


「ずいぶんとセコイ最強だな。おまえらしくもない」


「言ってくれるなよ。超えてくれる“本物”を待つのが俺の楽しみでね!」」


 この程度の壁を超えられない者には、舞台に上がる資格がないということかな。

 構わない。ならばその期待に応えてみせよう。


 俺は一歩を踏み込み、【偽虎にせとら】の意識を呼んだ。

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