第150話 夜会話

 夜、寮のベッドで横になっていると、【偽虎にせとら】があらわれた。


 宙に浮かぶ刀というのは、何度見ても不思議な光景だな。

 また俺を斬り殺しに来たのかと思ったが、今日はどうやら違うらしい。


 俺だけに聞こえる思考のテレパシーで、【偽虎】は言う。


「宮尾レイジの能力には、まず、間違いなく勝てないだろう」


「なんだ? おまえは戦う前から俺を諦めさせたいのか?」


「そうじゃない。現実として、99パーセント勝てない勝負だと言っている」


 ならば1パーセントを拾うだけだと俺は思った。

 【偽虎】も俺と同じ気持ちのようで、話を続けてくれる。


「1パーセントにも満たない勝機を勝ち取るためには、ただ一度のチャンスに全霊をかける他にない。キミにできるか? 友人想いの青虎、おまえに、友人を斬り殺すことが?」


「友人だからこそ、全力で戦いたいと、今は思う」


「ほう? めずらしく、やる気があるな?」


「自分でもそう思うよ。心配するな。明日は、おまえにも出番をやる」


 人の首を斬りたがる【偽虎】だが、この時ばかりはいぶかしげにした。

 おそらくは生まれてはじめて、俺は【偽虎】に譲歩じょうほしている。

 俺は【偽虎】の警戒をおもしろく思って、屈託のない気持ちで、言う。


「ふたりで勝とう。あの子の想いと……親友あいつの想いに応えるために」


 つかむべき目標が、勝利の栄光であるならば……

 俺は、この“手”を信じるだけだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る