第147話 どうして

 下校時間になって、校門に向かう途中。


 俺はグラウンドのかたすみに、見知った顔を見つけた。


 赤木あかぎココロだ。

 見るからに沈んだ表情で、この世の終わりみたいに落ち込んでいる。


 放っておいてもよかったが、それは人道に反するという話だろう。


「大丈夫か?」


 俺が声をかけると、ココロは目元をぬぐって、俺をにらむように見た。

 泣いていたのか? 見ないフリで放っておくのが、彼女のためだったかもな……


 とはいえ声をかけた後で、見ないフリはできない。

 俺はできる限り言葉を選びながら、彼女の傷心に触れることにする。


「残念だったな。今日は相手が悪かった」


「相手に恵まれないと勝てないって、それはダメってことでしょ」


「いや、勝負は時の運だ。自分が苦手な相手もいれば、上には上がいるものだろう」


「知った風なことを言うのね……やっぱり私、あんたのこと、苦手だわ」


 嫌われてしまったか。まあいいさ。

 猪突猛進なココロとは、俺も話すのが得意なタイプではない。

 ココロは空をあおいで、さみしそうに息をつく。


「どうしてかな、どうして、私は勝てないんだろう」


 いつもは強気なココロの、はじめて見る弱気だ。

 それが、上辺でない彼女の本心なのだとわかって、俺は少しだけ親近感が湧いた。


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