第146話 伝言

 その日、将棋同好会に、レイジは出席しなかった。

 アスカ先輩に会いに来るのがあいつの楽しみだというのに、めずらしい。


 代わりに、アスカ先輩が俺に、レイジからの伝言を教えてくれる。


「レイジくんから伝言よ。『いい勝負をしようぜ』って、さ」


「直接、俺に言えばいいと思いますが」


「そこは彼も男の子ってことかな~? カッコつけたいお年頃なのよ」


 アスカ先輩があっけらかんと微笑んだ。

 いつも通りのアスカ先輩だが、今はどこかさみしげに見える。


「アスカ先輩は知っていたんですか? 能力者としての、あいつを」


「聞くだけはね。でもまさか、あんなに強いとは思っていなかったけど」


 それは俺も同感だ。

 プライバシーもある。俺は他人の能力をあまり詮索することをしない。

 なのだが、この時ばかりは、話題にせざるをえない。


「学園長はレベル9だと言っていました。アスカ先輩もご存じでしたか?」


「うん、まあね。でも能力者のレベルと人柄には何の関係もないからさ。ふつうに話して、将棋同好会の仲間として、お話させてもらっていたよ」


 なるほど、特に隠していた話でもないらしい。

 情報不足は、単に俺のコミュニケーション不足という話かな。


 それにしても、いい勝負をしようぜ、か。


 俺にできるだろうか? 考えながら、俺は部室棟をあとにした。

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