第145話 ありえざる剣

 土煙が晴れた時、爆心地は隕石が落ちたクレーターのようになっていた。


 生きる者を拒む灼熱の環境に立つ者は、言葉を話さず空を見ている。


 驚かされたのは、俺を含めた観衆だ。

 ココロが放った炎の衝撃波は確かに直撃した。

 だというのに、レイジには傷一つない。服も靴も、まったくの無傷だ。

 おそらくは全力の攻撃だったのだろう。

 対戦相手の無事を認めたココロが、おおきくうろたえた。

 空から、視線を前に戻して、レイジが笑いもせずに問う。


「なんだ、手を抜いたのか?」


「するわけないでしょ! 私はいつだって、全力よ!」


「そうか。それは、ご立派なこころがけだな……」


 レイジが歩き、前へと踏み出した。

 持ちうる全力が通じなかったその後で、ココロに打つ手は無いと思われる。

 怯えてしりぞいたココロを、レイジは冷ややかに見ている。


「女を叩きのめすのは、趣味じゃないんだ。リタイアしてくれると、助かるよ」


「バカにしないでよ! わ、私は逃げたりなんかしない!」


「そうかい。それもまた、ご立派なこころがけだ」


 レイジは自らが持つ錆びた剣を、構えもせずに駆けだした。

 近距離戦……巨大な魔王剣と錆びた剣の対決だ。

 見た目にも、質量的にも、ココロの大剣に軍配があがるはずだ。

 しかし、そのはずだという期待は、ただ一度の交差で打ち砕かれる。


 ――武器破壊。地にへたり込んだココロは敗北の悔しさで、震えていた。

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