第140話 結実

【偽虎】は「その言葉、覚えておくよ」と言って俺の手に収まった。

 刀の持ち手は不思議と、吸い付くようで、軽く振るってあつかえる。


「素直じゃないやつ」


 俺がつぶやいたその時に、レイジが迷い人の俺を、探しに来てくれた。


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 翌日、帰りの列車で、レイジは爆睡していた。


 結局、どうしてこいつが自分の実家に俺を連れて来たのかは、よくわからないのだが、おかげさまでひとつ、迷いの霧が晴れたような気がする。


 キナコおばあさんが、別れ際に言ってくれたんだ。


「いい顔になったねえ」


 たったそれだけ、多くを語らないキナコおばあさんだったが、それで十分だ。

 一期一会いちごいちえに晩ご飯までごちそうになって、ありがたい話さ。


【偽虎】も、帰りの列車で、今は静かにしている。

 人は裏切る。自分は弱く頼りない。

 だとしても、あの子が、いてくれるなら……


「なあ、【偽虎】、おまえは、どうしたい?」


 ふと右手を、握って、開く。

 返る答えは決まっていた。

 誰にも望まれない自分の手を、俺は少しだけ、好きになれたような気がした。

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