第140話 結実
【偽虎】は「その言葉、覚えておくよ」と言って俺の手に収まった。
刀の持ち手は不思議と、吸い付くようで、軽く振るってあつかえる。
「素直じゃないやつ」
俺がつぶやいたその時に、レイジが迷い人の俺を、探しに来てくれた。
…………………………………………
………………………………
……………………
…………
翌日、帰りの列車で、レイジは爆睡していた。
結局、どうしてこいつが自分の実家に俺を連れて来たのかは、よくわからないのだが、おかげさまでひとつ、迷いの霧が晴れたような気がする。
キナコおばあさんが、別れ際に言ってくれたんだ。
「いい顔になったねえ」
たったそれだけ、多くを語らないキナコおばあさんだったが、それで十分だ。
【偽虎】も、帰りの列車で、今は静かにしている。
人は裏切る。自分は弱く頼りない。
だとしても、あの子が、いてくれるなら……
「なあ、【偽虎】、おまえは、どうしたい?」
ふと右手を、握って、開く。
返る答えは決まっていた。
誰にも望まれない自分の手を、俺は少しだけ、好きになれたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます