第137話 偽虎と

 呼んでもいないのにあらわれた【偽虎にせとら】は宙に浮遊している。

 不思議な光景だ。こいつもいちおうは魔法能力で生まれた刀という話なのだろう。

 とはいえ、今は【偽虎こいつ】には何の用もない。

 不思議に思いつつも、俺が対応を保留していると……


「っ!?」


 斬撃! 持ち主のいない偽虎が、俺をいきなり襲ってきた。

 どういうことだ? この山奥で俺を亡き者にしようとでもいうのか?


「おまえ……」


 【偽虎】の考えは、俺にはわからない。

 望まれない手に負けてきた俺には、こいつの考えることはよくわからない。


 しかし、想像できる話はある。

 こいつはいつも人の首を斬りたがっている。

 俺の無意識にある殺人衝動さつじんしょうどうかたまりと言えるだろう。

 それが【偽虎にせとら】の正体で、おそらくはそれが刀という“形”の意味だ。

 根本的に矛盾しているのだろうな。無意識に人を殺したいと願っている俺が、陽花に限っては傷つけたくないと願い、悩み考えているというのは……


 【偽虎無意識】の立場では、さぞ苛立つだろう。

 少なくとも、迷える俺を斬りつけて、殺そうとするくらいには……

 それでもいいさとは、口が裂けても言えないが、俺もこいつに返すべき言葉はある。


「【偽虎】、おまえは……」


 また斬撃だ! それを避けて、俺は問いを投げる。


「おまえは、陽花あの子を、傷つけたいか?」


 【偽虎】の動きが、止まった。


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