第136話 山奥で

 俺はレイジに連れられて、飼い犬の散歩に出かけた。

 山道を通ってため池をぐるりと一周して、戻ってくる、散歩コースだ。

 レイジは俺と雑談せずに、さっさと歩いて行った。


「一本道で迷うバカはいねーから、心配するなよ」とのことだ。


 俺はというと、ひとりで悶々もんもんと考え事をしていた。

 強さとはなにか……みたいな底なし問答ではない。

 陽花を怒らせてしまって、俺はどうすればよいのかを考えていた。

 頼りになる男になって、安心させてあげればよいのか。

 優しい俺に生まれ変わって、仲直りをすればよいのか。

 じっと忍耐して、陽花が満足するまで待てばよいのか……


「困ったな」


 結局は自分の選択で、身から出たさびではあるのだが……

 そういえば、キナコおばあさんが言っていたな。


 道に迷うことは、疑うことだと。


 疑心暗鬼、ということならば、度を越えた疑いは悪に違いない。

 俺の迷いは迷妄めいもうだ。

 キナコおばあさんには、俺の浅はかさを見抜かれていたのだろう。


「レイジ、おまえはどう思う?」


 話題を振ってみたところ、返答はなかった。

 気がつけば、道なき道を進み、俺はすっかり獣道の奥にいた。

 迷妄、迷妄である。


「これは……」


 迷った。そのときに、虚空から【偽虎】があらわれた。

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