第135話 無理なことだよ

「人を悲しませないとか、苦しませないとか、それは無理なことよ」


 キナコおばあさんは、どこかさみしそうに、言った。


「無理でしょうか」


「年老いて寝たきりになったおじいさんの、汚れてしまった手を取ってくれる子や孫の想いが、“優しさ”というものだよ。」


 キナコおばあさんは、俺の問いには答えず、話を続けた。


「忍耐強くなりたいなら、年老いてなにもわからなくなったおじいさんの、与太話よたばなしに、偏見なく付き合ってあげるといい。それが“忍耐”というものだよ」


「……それが、強さでしょうか?」


「いいえ、まったく、これっぽっちも」


 話の最後に、キナコおばあさんは、それは別に強さではないと否定した。


「誰にでもできることさ。誰にでもできるけど、でも、誰にでもできることを、偏見なくすることが、やっぱり一番むずかしいよ。人を疑っていたら、なにもできない」


 俺もレイジも黙って話を聞いていた。

 この人が、どんな答えを、俺に授けてくれるのか?

 他力ではいけないとわかっていても、年配の言葉には少しだけ期待をしてしまう。

 しかし、結論から言うと、キナコおばあさんはそこで話を切り上げた。


「青虎さん、道に迷うことは、疑うことよ」


「疑う……」


「散歩をしていらっしゃい。晩ご飯をつくって、待っているから」

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