第134話 なあに?

 俺は返す言葉に困った。


 強くありたい、と口にしてはみたものの。

 どんな強さが好ましいのか、どんな強さを望むのか、そのビジョンが俺にはない。


 キナコおばあさんは俺に問う。


「喧嘩に負けたくないの? 人に優しくありたいの? 忍耐強く、ありたいの?」


 すべてだと答えられたなら、楽な話だったのだが……

 さすがにそういう問題ではないと、俺もわかっているつもりだ。


 喧嘩に負けたくない。

 腕っぷしの強さはあって困ることはないが、上には上がいるものだ。

 陽花の心を傷つけないという目的には、あまりそぐわない。


 人に優しくありたい。

 口で言うのは簡単だが、自己満足でないなら、それは他人の評価次第だ。

 俺は陽花に優しいやつだと評価してもらいたいのか? 違う気がする。


 忍耐強くありたい。

 石の上にも三年と言うが、俺はどちらかと言えば即断即決を好む。

 もっとも近いのはこれか? 陽花にはやはり関係ない気もするが……


「どうかしら?」


「忍耐強くありたいと、思います。正直に言うと、わからないのですが……」


「そう、なら、ちょっとだけおばあさんの話に付き合ってちょうだい」


 キナコおばあさんが、軒先のきさき椅子いすにすわった。


 大きく息をついてから、キナコおばあさんは、話し始める。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る