第130話 ありがとう

 試合が始まる。

 陽花のさけびを聞いた瞬間に、俺は、上級生の首を斬り飛ばしていた。


「――ぐえ?」


 自分が斬られたことにも気づいていない間抜けな顔が、地に落ちる。

 鮮血が雨あられと降り注ぐ中、審判役の教師が、ポカンと呆けている。


「先生」


「あ……しょ、勝者、夜神青虎やがみあおとらくん!」


 歓声は上がらなかった。

 学園長の言った通りだ。誰も俺の勝利なんて期待していない。

 真剣勝負から逃げ出した者が、みなに祝福してもらえる道理はないのだ。

 俺は刀をしまって、陽花に歩み寄る。


「ありがとう。陽花」


「うれしくありません」


「それでも、ありがとう」


 自分ながら不器用で、相手の都合を考えない物言いだ。

 陽花には、今度こそ、本当に嫌われてしまったかもしれないな。

 それでも、彼女の泣き顔を見なくて済んで、俺はほっとする。

 こんなことを言うのは途方もなく、不謹慎かもしれないが……


「怒ったキミも、かわいいよ」


「な、なんですかソレはー!」


 陽花が真っ赤になって激怒した。遠くで、アスカ先輩が、笑ってくれていた。

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