第129話 わたしを、あなたの重荷にしないで

「話は、アスカ先輩から聞きました」


 観衆がやいやいと騒ぐ中で、進み出た陽花が言った。

 陽花は周りの注目など気にも留めず、俺に近づいてくる。

 静かに怒っているのだと、よくわかる。さながら幽鬼のようだ。

 試合の邪魔をさせないように、教師がめに入る。


「わたし、弱虫ですけど。なんにもできないし、頭も良くないし、能力者としても、レベル2の、落ちこぼれですけど」


「鶴山陽花さん、下がりなさい。試合の邪魔です」


「わたしは、うれしくありませんッ! 青虎くんが、自分にウソをついて! わたしにウソをついて! 誰かに守られたって、ぜんぜん、これっぽっちも、うれしくないッ!」


「下がりなさい!」


 教師に取り押さえられて、周りから奇異の目で見られても、陽花は退かなかった。

 耐えがたい重圧だろうに、悔し涙さえ浮かべない気丈さで、陽花は怒る。


「わたし、ウソをつきたくない。青虎くんにも、ウソをついてほしくない。もしも、あなたがわたしを仲間と認めてくれて、対等に思ってくれるなら――」


 大勢にあきれられて、つまらなく見下げられても陽花は意固地にふるまった。

 あの日見せた涙さえ、二度と見せまいとふるまう姿に、俺は死んだ心をふるわせる。


「あなたが! わたしを、想ってくれるなら――」


 【偽虎】を握る手に、力がこもった。そうだ、俺は――


「わたしを、あなたの重荷にしないでッ!!!!」


 弱さではない。俺は最初から、この子の強さを、心の底から、好きになったんだ。

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