第128話 誰が期待しなくても

「おどろかせやがって、わざわざ大勢の前で、恥をかきに来るとはな!」


 試合開始の前に、対戦相手の上級生が魔法能力で“長い棒”を呼び出した。


 長い棒、今日の対戦相手は棒術を得意としているらしい。

 守りを得手とするであろう武器は、3秒の時間制限には最悪の相性だ。


 背を向けて逃げられたら、俺の負け。

 一の太刀を防がれたら、俺の負け。

 なにもしなくても、俺の負け。


 どうあがいても、俺の負けが見え透いている。


 先日、ツバメ先輩との戦いで俺を称えてくれた生徒たちでさえ、今はつまらなさそうな顔で、俺に軽蔑けいべつのまなざしを向けている。


 つらいな。身から出た錆だとしても、自分のおろかさに心が痛むようだ。

 それでもいいさ。俺は心のどこかで、安堵していた。


 俺は負ける。情けなく負けるのだとしても、俺は友人を裏切らずに済んだ。

 負け惜しみで、どうしようもない言い逃れだとしても、俺はそれで満足だ。


 何も言わずとも、【偽虎にせとら】が虚空からあらわれた。

 どうやらこいつも、俺の負け戦に華を添えてくれるらしい。


 悪いな、付き合わせて……

 すっかり諦めた俺が、形ばかりに【偽虎】を手に取る。


 しかし、俺の無様を許してくれない、ひとがいる。


「青虎くん」


 陽花が、じっと、俺を見ていた。

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