第126話 おしゃべりがしたいのか?

 とうとつな暴力で、場の雰囲気が凍った。

 ゆかいに笑ってくれているのは、われ関せずのレイジばかりだ。


「すまない、レイジ、やっぱり、俺は……用事を思い出した」


「いいって、いいって! 用事があるんだろ? そっちに行けよ! いまさら走っても、もう間に合わないかもしれないけどな!」


 すっかり他人ごとの物言いで、あっけらかんと、レイジが言った。


 俺が敗北の約束を反故ほごにするつもりだと分かったからだろう。

 俺を見張りに来た上級生たちは、怒り、口やかましく吠えたてる。


「っ、待ちやがれ! てめえ、まさか逃がすとでも――」


「行けよ」


 レイジの冷たいひとことに合わせて、俺は駆け出していた。

 全力で走っても、第三回戦には間に合わないだろう。

 遅刻で失格だ。そうだとわかっていても、俺は走らずにはいられなかった。


 裏切りたくなかったんだ。つまらない見栄だとわかっていても、俺は……

 俺は、友人と、仲間と、陽花あの子の想いを、裏切りたくなかった。


新入生クソガキども! どいつもこいつも上級生にたてつきやがって!」


「おいおい、口喧嘩おしゃべりがしたいのか?」


 ふりかえらずとも、レイジが笑っているのが、よくわかる。


「来いよ。おまえらに、“最強レベル9”ってやつを、教えてやる」


 頼もしい友人に背中をあずけて、俺は無我夢中むがむちゅうに、走り続けた。

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