第120話 やるではないか、青虎くん

「なかなか、カッコよく活躍しているようじゃないか」


 保健室を出て、教室に戻ろうとしたところで、マルフジ学園長に出会った。

 学園長は、相変わらず『天晴あっぱれ!』のセンスを広げている。


 センスも待ち伏せも、あまりいい趣味ではないな、と俺は思う。


「いわく、獅子はウサギを狩るにも全力を尽くす……ふふふ、キミの戦いは常に全力だな、息切れしないかと、見ていてひやひやするよ」


「自分にできることを、やっているだけですから」


「大切なことだ。キミには期待しているよ。存分に力を振るい、選抜大会を勝ち上がってくれたまえ、その暁には、この学園の空気も、少しは変わってくれるだろう!」


 誰も聞いていないのをいいことに、マルフジ学園長が大いに高笑う。


 教育者として、この人はどういう倫理りんりをしているんだろうか? 

 と、思わなくもないのだが、いろんな意味で、タダ者ではないことは確かだ。


「しかしだ、青虎くん」


 あきれる俺の“隙”を見透かしたかのように、氷のような一言が突き入れられた。


「きなくさい動きもある。キミも、周りの動向には注意しておきたまえ」


「風紀委員長にも、同じことを言われましたよ」


 学園長は答えなかった。

 俺とすれ違って、赤の他人のように去っていく。

 俺が負けてくじけるならば、しょせん、そこまでだと、言いたいのかもしれない。


 無言の圧力。そしてまた、第三回戦の波乱が近づく。


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