第116話 本当の能力は

「あなたの本当の能力は【視覚阻害しかくそがい】ですね」


 俺が言うと、ツバメ先輩は驚きもせずにニヤリとした。


「そうだとも。本当に五感を支配する能力を持っていたら、俺は今頃、レベル9の能力者として、この学園の風紀を正しているよ」


 それもそうだな。と、俺は苦く思った。


 戦いは情報戦というが、相手が用意した虚像に騙されているようでは始まらない。

 戦う相手を警戒して、警戒をしすぎるということもないのだろうが……

 ツバメ先輩の口車に乗せられてしまった俺は、冷静さに欠けていたな。


「だが、気づいてどうする? 【視覚阻害】で距離感を狂わせたままで、俺を斬りつけられると思うか? おまえの刀は俺には届かないさ」


「ごもっとも」


 しかし、五感すべてでなく、視覚だけが異常なのだとすれば、対処方法はある。

 早い話が……


「目で見て、物を見ずだな」


「なんだと?」


「まばたきを繰り返す中で、視覚と聴覚とのズレを調整すればいい」


 ご丁寧にも指標となるのが、鎖分銅の“回転速度”だ。

 ヒュンヒュンと、風をきる音が、俺に本当の景色すがたを教えてくれる。


 視覚と聴覚のズレをもとに、狂った距離感を調整すれば――


「ツバメ先輩、あなたの首に、やいばが届く」

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