第114話 知覚阻害

「よく避けたな、それでこそ勝負の甲斐がある」


 鎖分銅を引き戻すツバメ先輩が、余裕の表情で俺を称えた。

 どういうことだ? 俺は確かに、鎖分銅を避けた、そのはずだが……


 あと数センチ、回避が間に合っていなければ、俺の頭蓋骨が砕けていた。

 おそらく即死だ。ゾッとする現実に肝を冷やして、俺は考える。


 俺の目測は間違っていなかったはずだ。

 間違っていないものが、狂っているのだとしたら、それは通常の状態ではない。


 ふつうではない、つまり……これは、能力者の戦いなのだ。


「俺だけ能力が知られていないのは、フェアではないかもしれないな」


 案の定というべきか、堂々しているツバメ先輩が教えてくれた。


「俺の能力は【知覚阻害ちかくそがい】だ。おまえの五感は今、俺の手中にある」


「【知覚阻害】……」


「フッ、さてな、あまり信じるなよ。目にうつるもの、音に聞こえるものが、すべて真実だと思っていると、痛い目をみるぞ」


 のらりくらりと、俺を幻惑させるように、ツバメ先輩が笑った。

 この笑いでさえ、今は正確な距離感がつかめない。

 まずい、マズすぎる。知覚を……五感を阻害する能力だと? なんだソレは?


「ほら、次だ!」


 鎖分銅が投げ放たれた! 


 俺はみずからのよりどころを失ったまま、絶望的な戦いへと身を投じた。

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